No.6

□きみの隣で
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魂よ、魂よ
おまえはどこから来て、どこに去っていく
この腕の中に抱きしめていたいのに
風と共に、あの天空へと
舞い上がっていくのか
雨と共に、この大地に
染み込んでいくのか
光と共に、このわたしを
暖かく包むのか
魂よ、風になる前に、雨に変わる前に、光と輝く前に
もう一度だけ、
わたしの腕に戻って
いつか、わたしも風となり、雨となり、光となり
あなたを抱きしめる
あなたを抱きしめる








―夢を見た。

力河さんに頼んで連れて行ってもらったネズミの舞台の夢だ。


夢の中でネズミの歌っていた歌は、たしか『埋葬の歌』という名だったはず。


(埋葬の歌…か。ぼくが死んだら、ネズミはこの歌を歌ってくれるのだろうか。)



身体が動かなくなってから、紫苑はネズミを想って命を繋ぎ止めてきた。


だがそれも、そろそろ限界らしい。



(ネズミ、ぼくは何のために生まれてきたんだろうな。)



No.6で何も知らずに生きてきたぼくに現実(リアル)を見せてくれたネズミ。



(ぼくはな、きみに出会うために生まれてきたんだと思うんだ。)



ネズミに出会えなかったら、ぼくはぼくになれなかった。


No.6に決められたままに、誰だか分からないような人生を歩んでいたに違いないんだ。


(だからきみには本当に感謝してるんだよ、ネズミ。)


この感謝の気持ちを、きみに直接伝えたかった。



でも、もう無理みたいだ。



「…ご、め……ネズ…」
(ごめんな、ネズミ。)


動かない口を、最期の力を振り絞って微かに動かす。


「ぁ…り……と…」
(ありがとう)



途切れ途切れに言葉を紡ぎ、最期を迎えようとした時


紫苑の手に、なにか温かいものが当たった。
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