鳴門短編
□if未来を君に
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気付くのが遅れた。
長期任務が入っていたとか、そのせいで彼らにしばらく会えなかったとか、そんなことは言い訳にもならない。
迂闊だった。
もっと早く気付くべきだったんだ。
「シスイ。全部話して」
「……イグサさん、」
じっと見つめる私に、シスイは参ったというように溜息を吐いた。
「俺が話さなくても、大方知ってるんでしょう」
「クーデターのことと、イタチくんが二重スパイだってことぐらいしか知らないわ」
「それがほぼ全てですよ」
シスイは苦笑する。
「クーデターを阻止するために、俺たちは里とうちはの間で動いてきました。…けれどそれも、もう限界のようで」
目を伏せて話すシスイは、すでに相当疲弊しているようだった。
長期任務が続いていた私の身と未来を気遣って、幼馴染であるのにも関わらず、今まで何も言ってこなかったぐらいだ。
イタチくんの負担もなるべく減らせるように、できる限りのものを一人で背負ってきたに違いない。
シスイはそういう奴だ。そしてイタチくんも。
…本当に、どうしてこんなに気づくのが遅れたんだ。
「警務部隊がイタチを疑い始めています。先日、イタチにはしばらく動かないように言ってありますが…」
「そうね。このままだと板挟みになりかねない」
暗部で二重スパイとして動いているイタチくん。
カカシさんの下だと聞いているが、今から少しでも手を回しておくべきか――。
「私もしばらくは木ノ葉にいられるし、暗部で何かあればすぐに知らせるわ」
「…はい、」
お願いします、と力なく笑ったシスイを見つめる。
彼や私にとってイタチくんは友であり、弟のような存在だ。
自分を犠牲にしてでもイタチくんを守りたい、というシスイの気持ちは痛いほど分かる。
私だって、できることなら代わってやりたい。…けれどそれは無理な話だ。
うちは頭領の息子であるイタチくんだからこそ、二重スパイという役割を与えられたのだから。
「あなたはどうするの?」
「里と一族の共存のため、三代目から任務を授かっています。…最悪、フガクさんに別天神を」
「…別天神、」
忘れもしないその術の名を、久しぶりに聞いた。
シスイの万華鏡写輪眼に宿る、無自覚のまま相手の意志を操ることができる能力。
シスイの才能をもって開眼し、彼だからこそ制御できる技だ。
ただ、今現在シスイが使える別天神は一つだけ。
第三次忍界大戦中、開眼した万華鏡写輪眼と同時に使用した左目の別天神が、未だ回復していなかった。
(確かにそれをフガクさんに使えば、クーデターを阻止できる可能性がある、けど)
「それですんなり里が納得するかしらね」
「…うちはが変わらなければ、里も変わりません」
「………」
そうかもしれないけど、と今度は私が溜息を吐く。
うちはが変わって、里が変わる。
(そうなればいい。…間に合えばいい)
そうやってまた、再びうちはが木ノ葉と共に歩めたら。
(…でも、そんなに簡単なことじゃない)
両者の溝が深まってしまっている今、元通りにするのは正直かなり難しいだろう。
既に決意を固めた様子のシスイを前に、私はやれやれと眉を下げた。
仕方がない。
それでもシスイがやってみせると言うのなら、私はそれを精一杯サポートしよう。
本当に、昔からこの弟分は変わらない。
お人好しで、眩しいぐらい真っ直ぐに生きている。
打算とかそんなものは考えず、目の前の困っている人を助けてしまう。
そしてひたすらに、前に向かって歩いて行く。
――そんな彼に、私は救われたんだ。
「それにしても、ここまで何も話してくれないなんてね」
「無茶言わないで下さいよ。うちはでないあなたを、こんなことに巻き込むなんて――」
「今更ね。目指すものは同じでしょ」
「…そうでした」
言った私に、シスイは嬉しそうに笑った。
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