Successors -番外短編集

□2012クリスマス
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 クリスマス。此処アンブロジウスが世界中から生徒の集まる学校であることは知られているが、ほとんどの生徒がヨーロッパやアメリカなど、キリスト教圏の出身である。また、学校自体イギリスにあるので、クリスマスは学校全体で盛大に祝うのだ。

 クリスマスイヴの夜には、年に一度の舞踏会が催される。この行事はアンブロジウスで最も人気があり、誰もが楽しみにするイベントだ。
 この舞踏会で共に踊り、最後にキスをしたカップルは永遠に結ばれるというジンクスもあるという。

「……舞踏会かぁ…」

 新聞部が発行する新聞「日刊マーリン」をテーブルに広げながら、カルラはため息をついた。

「カルラは迷う間もないでしょ、リーがいるんだから」

 シェリー・アップルガースがカルラの隣に座りながら言った。カルラは肩を竦め、答える。

「ううん、私の問題は当日の衣装とか、ジェンファがほかの女の子に誘われないかとか。そういうシェリーは、誘いが多すぎて大変ーとかじゃないの?」
「“可愛いファニー・アダムス”!そんなことある訳ないじゃない。なってみたいわよ、そんなモテ女に」

 まさか。すでに五人くらい振っているのに……カルラはその言葉を笑顔の奥に押し込めた。
 二人が話している間に、メルヴィが向かいに座った。

「モイー、カルラとシェリー」

 モイ、というのはフィンランドの挨拶らしい。メルヴィは座るが早いか、机に突っ伏した。その手にはしっかりと「日刊マーリン」が握られている。

「……どしたの、メルヴィ」
「舞踏会のこと……」

 はあー、と盛大にため息をつくと、そのまま喋らなくなった。シェリーは訝しげな顔をし、席を立った。

「……メルヴィ、どしたの」
「…ダリルをさ、誘いたいんだけど」
「誘えばいいじゃん、絶対喜ぶよ」
「恥ずかしい」

 ガン、と音を立て、メルヴィはテーブルに頭を打ち付けた。カルラは上体を起こし、苦笑気味にメルヴィに話しかけた。

「そんな、二人の間で恥ずかしいなんてことないでしょ。恋人である以前に親友じゃないか」
「……スオマライネンはシャイだから」

 ぼそぼそと低く喋るメルヴィを、やれやれと言った風に見つめ、カルラは言った。

「そんな、メルヴィもシャイでダリルもシャイじゃ、どうするって言うのさ〜。どっちかが言い出さなきゃ!」
「わかってるけどさ…そ、その…」

また突っ伏すメルヴィを見、カルラはため息をついた。

「これは…ダリルの方から来てくれるのを期待するしかないか…」
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