Successors
□1.9月
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9月1日、スコットランドでは少し遅めの新学期が、アンブロジウスで始まろうとしている。
多くの生徒が、各国から箒、自転車、バスなどで登校する。ダリルは、弟のジェフが今年からアンブロジウスに編入するということもあり、母の運転する車に乗って来ていた。
「あ、ママ、周りが曇ってきたよ。もう少し高いところ飛んだ方が良いんじゃない?前みたいに箒と接触したら厄介だよ」
ダリルの指摘に、母のチェルシーは口を尖らせた。
「ダリル、あなた相変わらず心配性ねぇ……大丈夫よ、このくらいの雲なんて。他に車も箒も飛んでないし」
「まぁ、確かに……うわっ!」
ジェフが窓の外を見て声を上げる。右隣に、綺麗に磨きあげられた高級車が飛んでいた。
「こんにちは、ボルトンさん」
「あら、メルちゃんのじいやさん。お久しぶりです」
「……えっ!?」
ダリルが、ジェフを押し退け窓を開ける。高級車の窓も開き、プラチナブロンドの髪が風に揺れた。蒼い瞳は不機嫌そうにダリルを睨む。
「あ、め、メルヴィ……ひ、久し振り」
「ああ、久し振り。」
「夏休み、どうだった?」
「お陰さまで、ひどくあっつーい夏を過ごしました。」
ダリルは真っ赤な顔を手で覆い、ため息をついた。
「え、えーとさ……その、へ、返事というかなんというか……」
「……馬鹿、とだけ言っとくわ」
プイと顔を背け、メルヴィは眉を顰めた。焦るダリルを、ジェフはニヤニヤ笑いながら見ている。
「じいやさん、今年もダリルがお世話になりますわ。ええ、うちのせがれはメルちゃんにお熱なようで…」
「いえいえ、こちらこそ御嬢様がお世話になります。こちらの御嬢様も、ダリル殿のことでいっぱいいっぱいな様でして…」
「やめろよ、ママ!」
「やめてくれ、じいや!」
ダリルとメルヴィの必死な声が重なった。ジェフがついに声を上げて笑い、ダリルに叩かれた頃、車の後ろから声がした。