BOOK
□三人のキューピッド
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死武専の校長室。彼らはこっそりと活動する…。
蝋燭だけが、ゆらゆらと妖しく光る空間。いつもとは違う校長室の雰囲気が事態の重さを物語っている。
薄暗い光に照らされた鏡の中の死神様は、いつになく神妙な顔つき(角度によってはそう見えなくもないお面の被り方)になっていた。
その鏡に向かって真っ直ぐに視線を向けるのは、死神様の武器でもある才色兼備、魅力満載のデスサイズだ。いつになく真剣で、一度も表情を緩めてはいない。その表情もまた凛々しい。
「…んで、最近のターゲットの動向は?」
「特に目立ったものはないです。奴ら、既に勘付いてるのかもしれません」
「参ったねェ〜。さすが死武専最強の職人とデスサイズの一人だ。一筋縄じゃいかないか」
「ご心配なく。最強のデスサイズのこの俺が、必ず尻尾を掴んでやりますよ。それが…」
一呼吸置いて、続ける。
「俺とマカのハッピーライフへの扉でもありますからああああああ!」
「…いい大人が何をやっているんですか」
『あ』
いい大人たちの前に現れた、というかさっきからずっとこの光景を眺めていたのは、東アジア担当のデスサイズ、弓梓だった。
「よーう、梓。遅かったな」
「すみません、東アジアからついさっき着いたばかりなんです。…というか、本当に何をしているんです?変なナレーションまでつけて」
そう、今までの地の文はデスサイズ創作によるナレーションだった。校長室はいつもと変わらない、青く美しい空のままである。
「あるだけで違うだろ、こういうの。雰囲気づくりが大事なんだ。デート然り、な」
デスサイズのしたり顔からはドヤアという音が今にも聞こえてきそうだった。
「…先輩はもう結構です。死神様、まだ諦めていないのですか?お言葉ですが、ああいうのは当人たちがどうにかするものであって私たちが介入すべき問題では…」
「梓ちゃん。ま、そう言わないで。これは死武専にとっても大事なコトなんだ」
「はあ…」
「周知の通り、シュタインくんの精神はだいぶ狂気に侵されつつある…。これを食い止めるためには癒しの波長を持つマリーちゃんを傍に置くしかない。だからこそ、これは必要なコトなんだ」
「…」
「そう…、俺たちで」
『マリー=ミョルニルとフランケン=シュタインを結婚させる!』
ほら結局これだ、梓は盛大にため息をついた。
「考えてみろ、梓!シュタインが所帯を持てばどうなる?俺への関心は薄くなり、俺が実験されることもなくなる。そうすれば俺とマカのラブリー・プリティライフの幕開けだ!マカあああああああ!愛してるよおおおおおお!」
愛娘の写真を持ちながらゴロゴロと転がる姿はとても最強のデスサイズとは見えない。ただの中年の親バカだ。実際、その認識は間違っていない。
「だからマリーさんを犠牲にするんですか?私は反対です。あんな変態サディスト。マリーさんの体がもちませんよ」
眼鏡の縁をカチャッと上げて反論する。しかしこの二人の前では意味をなさない。
「マリーちゃんだって結婚相手探してたしいいんじゃな〜い?シュタインくん、強いしカッコイイでしょ。マリーちゃんを使いこなせる職人も彼くらい…。これ以上ない好条件だと思うんだケドなァ〜」
「では死神様は結婚したいと思いますか?あの男と」
「勘弁かなァ〜」
即答。じゃあなぜ勧めるのかという疑問は飲み込む。
梓の納得のいかない表情にお構いなしに死神様は続ける。
「それに…」
「他人の恋愛って面白いジャ〜ン♪」
本音はそれが一番ですよねえ!
「イエーイ」とデスサイズと死神様はハイタッチした。といっても鏡とのハイタッチなので間抜けに見えることこの上ないが。
さらに反対しようとした梓をデスサイズが遮った。
「そんなに目くじらを立てるなよ。心配なら活動にこれからも参加してマリーを見守ればいいだろ?活動の中でシュタインに任せられないと思ったならお前が全力で阻止すればいいだけだし。そして、何より」
「お前も面白そうだと思うだろ?」
悪魔の囁き。
赤い鎌と真っ黒な死神がにやりと笑った。
今日も『マリーちゃんとシュタインくんの毎日応援してあわよくば結婚までこぎつけさせちゃうよォ〜隊』(…長いから次から『シュタマリ応援隊』でいいや by死神様)もしくは『キューピッド隊』(だからこっちにしましょうって byデスサイズ)
彼らは今日も活動中だ。
『そのダサい名前やめて頂けませんか』(by梓)
どうしようもない大人たちです。マリー先生が幸せになれる日は来るのでしょうか…。