BOOK

□夏花火
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花火大会。
夏に誕生したカップルは大抵この恩恵を受けていると言っても過言ではない。

いつもと違う浴衣姿に心を躍らせ、一緒に出店をまわる。
これを青春と言わずなんと言うのか。

今日はそんな期待を胸にやってきた。
生徒会全員でだがそんなことはどうでもいい。

夏目のリクエスト通りの浴衣まで着てきて。

「ちゃんと浴衣着てきてね」
そう上目遣いでお願いされてその頼みを断れる訳がない。

勿論ぬかりなく、お前も着てくるんだろうな、と確認しておく。
その答えがイエスだったからこそこうして着た訳だが。

夏目の浴衣姿は、予想以上だった。
髪をアップにし、普段よりも大人っぽい。
艶やかに花が散りばめられた浴衣は夏目によく似合う。
体のラインがよくわかるからか、大人っぽさが増してなんとも言えない色香が漂っていた。
少し窮屈そうな胸元を見て、下着をつけているのかとか邪な思いが頭によぎったけれど。

ここまでは大満足だ。
だが、いつも俺の期待をいい意味でも悪い意味でも裏切るのが夏目という女である。

遅れてやってきたヘアピンは甚平姿だった。
ざわりと嫌な予感がする。

案の定。

「よし!二人並べると夏祭りデートの完成!!」

…この腐女子が!

極め付けはチョコバナナを渡されてからカメラを構えながらの

「なるべくいやらしくしゃぶってね」
好きな女に殺意が芽生えた瞬間だった。









花火が上がる。

上がるまでに一悶着も二悶着もあったが。
でも空に浮かぶ大輪の花がそんなことどうでもよくなるくらいに綺麗で。

ふと隣で花火を見つめる女に目をやった。

夏目は名前通り夏が似合う。
情熱的で、活発。
否応なく人を惹きつける魅力がある。
太陽みたいな女だ、と思っていた。

そして花火のようでもある。
華やかに、美しく散るその姿は儚くて、切なくもあるけれどやっぱり目を奪われる。
その姿はいつも全力投球な夏目を彷彿とさせるのだ。
そう思うと、なんともいえない気持ちになる。


「秀?」
気づくと夏目が心配そうな目で俺をじっと見つめていた。どうやらそれなりの時間夏目を見つめていたらしい。
お前のことを考えていた、などと言えるわけもなく適当にごまかした。

あまり納得はしてないようだったが、どうでもよくなったらしく話を変える。

「なんでもいいけど、見なきゃ勿体ないわよ。これが今年最後の一番大きい花火大会なんだから」

夏目の言葉にそうだな、と返す。
しばしの沈黙のあと、夏目が感慨深そうにつぶやく。

「綺麗ね。来年も、見れたらいいなあ…」
あ、でも私とあやは卒業か。
そう言った夏目の表情は寂しそうだった。

花火の数はどんどん少なくなっていく。
次が最後の花火だとかかった。


「来年も、来ればいいだろう」

「え?」

「来年も再来年も絶対連れてきてやる」

どんなに離れても、俺が。

最後のほうは今日一番大きく綺麗な花火の音にかき消されてしまった。
夏目も聞こえていなかったと思う。




だけど

夏目は今日、一番綺麗な表情で笑っていた。









秀→夏。なんというかうちの秀は夏目さんを愛しすぎています。

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