サカナさん
□フタツボシ
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※設定は色々無視しています
電車が揺れる音が、妙に心地好かった。残業終わりのサラリーマンやOLなど、たくさんの人が乗っていたけど何とか黒子と火神は隣同士で座席に座ることができた。
各駅でどんどんと降りていく人々を、二人は静かに見ていた。
終点となった深夜の駅は、さっきとは打って変わって人影はなく、そこには駅員を除けば二人だけしかいなかった。
「人いねぇな…」
「なんか寂しいですね」
駅を出て、二人並んでトボトボと歩く。冬の寒さは未だに慣れないけど、火神と過ごす時間は、黒子にとってはちょっとだけ暖かかった。
すると、火神が突然立ち止まって言った。
「…手、繋ごうぜ」
「え?」
本当に突然だったので、黒子は照れるより先に、目を丸くして驚いた。
「…っ、そんなポカンとした顔してんじゃねぇよ!恥ずかしいだろ!」
真っ赤な顔で慌てる火神に、黒子は思わずクスクスと笑ってしまった。
「どうしたんですか?急に」
「繋ぎたくなったんだよ!いいだろ別に!」
「いいですよ、はい」
黒子は右ポケットから手を取り出して差し出すと、火神の大きな手が、その小さな手を包んだ。
「あったけぇな」
「ずっとポケット入れてたからですよ。分けてあげます」
火神の手は黒子の手よりも冷たかった。少しでも体温を分けてあげたくて、ぎゅっと握り返せば、火神は「さんきゅ」と言いながらはにかむように微笑んだ。
なんだか、二人だけの世界みたいだ。
黒子はふと、そう思った。
すると、火神は夜空を見上げて言った。
「なんか…二人だけの世界みたいだな」
「…!」
火神がぽつりと呟いた言葉に、黒子は一瞬驚いてて、その後小さく頷いた。火神が自分とまったく同じ事を考えていた。いつも一緒にいる人と考えがシンクロするなんてよくあることだ。
だけど、そんな些細なことさえも黒子にとっては嬉しいことだった。
「おい、見ろよ黒子。
あの星…すげぇ綺麗だぜ」
そう言われて黒子は視線を移すと、火神が見上げていた夜空には、まわりの星よりも綺麗に明るく光っていた星が二つ、まるで寄り添うように並んでいた。
「黒子…すげぇ好き」
「っ、だからなんで火神くんはそうやっていつもいきなりなんですか」
「いや、なんかテンションあがったんだよ!」
「…もう、本当に…」
(だいすきですよ。)
「あ?何か言ったか?」
「秘密です」
「はぁ?なんなんだよ…」
(今のはきっと、あの星にしか聞こえていないよね)
「あの星ってなんだか僕たちみたいですね」
「…今お前と同じこと考えてた」
ああ、なんて幸せなんだろう。
-END-