サカナさん

□キャラメル・ソング
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「お前さ、見送りに行かなくていいのか?」

━━━今日だろ?あいつがアメリカ帰んの。
日向先輩が不満げに呟いた声に「もう、いいんです。」とだけ答えた。重苦しい沈黙に、僕は少しだけ苦笑いした。

(数えきれぬ思い出に今は目を閉じていさせて)



*****



部活が終わってその帰り道、僕達はいつものようにあの店に入り、いつものようにあの席に座った。彼はハンバーガー、僕はバニラシェイクを注文する。そして、楽しい時間はあっという間に過ぎていく…はずだった。
なのに、今日は違った。

『俺さ、アメリカに帰ろうと思ってんだ。』

信じられない一言に、僕は一瞬彼が何を言っているのかわからなかった。

『もっかい、あっちでバスケしようと思ってさ…
強く、なりたいんだ。もっと。』

まだ何も整理されていない思考は、僕を黙らせる。何か言わなければと言葉を探してはみるけど、それはどこにも見つからなくて。

『悪りぃな…急で。』

一度決めたことは、絶対に変わらない。そういう彼を知っていたから、余計に僕は何も言えなかった。せめて頷くだけはと思って小さく頷いたけど、必死に涙を堪えようとしていたことはバレていたような気がする。
熔けかかったバニラシェイクを飲んでみても、その甘い味はすぐに消えて、全然美味しくなかった。

もうどれだけ泣いたのだろう?その日の夜のことは、僕はあまり覚えていない。



*****



茜色の夕日が差し込んで、教室がオレンジに染まる。
今日が、終わっていく。時計の針がカタリと音を鳴らした。あの針を止めてしまえば、
繋ぎ止めておけるのかな?

「あいつ、寂しそうだったぞ」
「…今更…そんなこと…」
「行ってやれよ。」
「でも…」

「先輩命令」
「…っ」

僕は一体、どうすればいいんですか。

本当は…本当は。
(口に出したらきっと少し困るだろうな)

カタリ、また時計の針の音が聞こえた。

「5時の飛行機に乗るって言ってた」
「え…」
「今行けば間に合うんじゃねーの?」
「……あの、ありがとうございます…っ」
「ほら。早く行けっつーの、ダァホ」


(その手を伸ばして 星をつかまえよう)



*



もうどれだけ走ったのだろう。気が付けば、空港にいて。
愛しい人の背中は、すぐに見付けられた。そして、名前を呼んでみる。名前を呼ぶことにさえも、僕は胸がいっぱいになった。

「火神くん…!」
「黒子…!?」

真っ直ぐ、火神くんのもとへ駆け寄って、力いっぱい抱きしめた。涙で視界が歪んでよく見えなかったけど、火神くんは安心したように笑っているのは分かった。

「正直、来てくんねーのかなって思った」
「…本当は僕も、来たくはありませんでした」
「は!?」

そっと身体を離して、火神くんの手を包み込むようにして自分の手を重ねた。“サヨナラ”なんて、言葉にするのはつらいから、こうやって手が触れるだけで伝わればいいのに。

「火神くん…僕はずっと、待っています」
「…もし俺のこと忘れてたら、容赦しねぇ」
「忘れるわけ、ないじゃないですか。」

空港には、アナウンスが鳴り響いた。

「もう、行かなきゃな…」
「…はい」

「黒子っ!」





━━絶対、会いに来るから。


そう言い残した言葉は、あまい夕空と一緒に溶けていった。
火神くんの背中が見えなくなるまで、僕は手を振り続けた。

もしも君に会えるのが何年先だったとしても、僕の気持ちは変わらない。

信じた夢の先に、君と僕の未来があればいい。
僕らはずっと、繋がっているから・・・




 ずっと僕の宝物さ
 可笑しいくらい君が好き

 いつか君が笑えるなら
 僕は心から手を振るよ


(また会ったときに言わせてね、「愛しているよ」って。)


【キャラメル・ソング】

-END-

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