サカナさん

□addict and fall
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部活も終わって、二人並んで歩く帰り道。どちらが合わせているわけでもなく、自然と同じ歩幅で歩いていた。
影が遠く伸びていて、火神くんに少しだけ寄り添って歩いてみると、自分の影も、隣の大きい影に寄り添って重なる。それがなんだか嬉しくて、僕は小さく微笑んだ。

冷たい風が吹いても、触れている身体から伝わる体温がどことなく暖かくて平気だった。ふと、右ポケットに入れていた手を出して、それを火神くんの手に絡めてみた。

「今日はなんか…積極的だな」
「そういう気分なんです」
「ふーん…」

悪くないけど、なんて君は僕の大好きな笑顔で言うものだから、思わず顔が赤くなった。
たまにはと積極的に振る舞った態度も、なんだかちょっと虚しくなって、結局僕は君に溺れてしまう。奥深くまで嵌まって、抜け出せない。

(抜け出せないんじゃない、きっと、抜け出したくないんだ)


「でも、なんか調子狂うわ」
「そうなんですか?」
「余裕がなくなるっつーか・・・な」


うそつき。

いつも余裕で涼しい顔をしているくせに。ほら、今だって。いつもは僕のほうが必死で、完全に翻弄されていて。


「いつも自信満々じゃないですか」
「ばか、自信満々に見えるだけだよ」


──本当は、お前のことになるといっつも余裕ねぇんだよ。

そんな事言っておきながら、そういう姿は一度も見たことがない。


「もっと見せてください。いろんな火神くんを」
「格好悪りぃから、やだよ。お前にはそういうとこ見せたくねぇ」
「なんでですか」
「そんなの好きだからに決まってんだろ」


(ああ、もう、どうして君はそんなに僕を困らせるんですか)

好きすぎて、困るんだ。僕はそんな君が好きでたまらない。君にとって欠点だと思う部分でも、僕にとっては愛しく思えるんだから。僕が君に溺れるなんて、すごく簡単なことだ。


「もっと、僕に溺れてほしいです。」

頭の中を僕でいっぱいにして、僕のことしか考えられないくらいに。
(僕と同じように、君にも、)



君を溺れさせる方法を

僕は知らない。




「そんなこと言われなくても、もう充分溺れてるっつーの」

火神くんがボソッと呟いた言葉に疑問符を抱く隙もなく、半ば強引に手を引かれ、路地裏に連れ込まれた。そして壁に追い詰められた後の突然のキスに、頭が真っ白になった。

長いキスが終わり、薄く瞼を開けると、息を荒くあげて、自分を求めている火神くんがいた。少し不安そうで、まさに余裕のない、顔だ。

「火神・・・くん、」

名前を呼ぶと、今度はぎゅっと強く抱きしめられた。そして、

「好きだ」

そう耳元で優しく囁かれた言葉が鼓膜を震わせ、リアルに伝わる。速くなる鼓動の音が、火神くんにも聞こえそうなくらい高鳴っていた。

「こんなとこ、見せたくなかったのにな・・・」
「カッコイイですよ?そんな火神くんも」



「・・・っと、敵わねぇ・・・」



いつもはこんな表情見せないのに、どうしてこんなときだけそんな顔するんですか。
でもそういう君を好きだと思ってしまうのは、惚れた弱みなのかもしれない。

(気付いたときにはもう、)



「火神くんって、本当に僕のことが好きなんですね」
「そうだよ。悪りぃか」
「でも、君が僕のことを想ってる以上に僕は君が好きですよ。」
「へぇ・・・上等じゃん」



(溺れていく、堕ちていく)



-END-

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