サカナさん

□ほんとはね
1ページ/1ページ

「あおみねっちぃ〜…」

届くわけないけど
なんとなく名前を呼んでみる。

人ひとりいなくなった静かな教室。力なく机に突っ伏せて、携帯を開いた。(受信メールも着信も0件、か)

今頃何やってんのかな?

会いたい、なぁ。



  ほんとはね



遠距離っていうほど遠くはない。会いに行こうと思えば会いに行ける距離、なんだけど。

本当は毎日だって青峰っちに会いたいし、いっつも近くにいたい。


「いや、それはダメ・・・」


会っちゃったら、絶対に帰りたくなくなるんだよなぁ。甘えだしたら止まらなくなるし、欲が出る。
それで青峰っちを困らせちゃったりしたら・・・


でも。だって、青峰っちって全然マメじゃねぇし。メールも電話もいつも俺から。時々返信ないときあるし、電話なんて自分から掛けてくることなんか一切ないし、てか最近メールすら全然してない気がする・・・

そんなの、会いたくなるに決まってるでしょ。
声が聴きたい、会って話がしたい、抱きしめてほしい、とか思うでしょ。普通は。
(ほんと、なんなんだよ、あの人は)


(ほんとはね、)

どうしようもないくらいに
会いたいよ。





「あ?何だお前、まだクラブ行ってなかったのかよ。早く行けっつーの」
「あ、笠松センパイ・・・あはは、すみません!」
「たっく・・・先行ってるから着替えて早くこいよ」


教室の窓から身を乗り出して相変わらず怖い顔をしてる笠松センパイに、苦笑いで「今から行くっスー」とだけ言うと、笠松センパイは「遅刻だけは許さねぇからな」と釘を刺すように言い捨て、行ってしまった。


これで遅れて怒られたら、青峰っちのせいなんスからね?
青峰っちのことが好きすぎて、自分の頭の中が青峰っちばっか。何をするにも青峰っちの顔ばっか浮かんで、ほんと・・・どうしてくれるんスか。
(先に惚れたが方が負け、ってやつなのかな)



「青峰っちのばーか・・・」


好きすぎてムカつくよ。涙が出そうになる。いつも俺の心をギュッて掴んで、全然離さない。その度に胸がズキズキ痛んで、声も出ないから。

重い身体を起こし、椅子から立ち上がった。



するとその時、


ブー ブー



さっきまでずっと静かだった携帯が突然鳴った。電話だった。急に鳴ってびっくりしたけど、携帯のディスプレイの文字を見たときには、一瞬心臓が止まりそうになった。

“青峰大輝”───。



「え、…な、なんで…」


震えている携帯を手に取って、ゴクリと息をのむ。

あぁ、どんなふうに話せばいいんだろ?なんでこんな時に限って電話?いつもは掛けてこないくせになぁ。
動揺を隠せないまま、電話に出た。


「もしもし…」
『よォ…』
「ひ、久しぶりっス」
『あー…まぁ、な』

久々に聴いた電話越しの声でいっぱいいっぱいになる。頭が真っ白になって、何故か言葉が思い付かなかった。

僅かな沈黙ができたが、それを破ったのは意外にも青峰っちのほうだった。


『お前、元気なの?』
「げ、元気っスよ…」
『最近メールとか来ないから、どうしたのかと思ってよ…』
「なんスかそれ…」

じゃあ自分からすればいいのに。もう、ほんと意味わかんないっス・・・

『お前さ、明日暇?』
「え、土曜っスか…?明日の練習は午前だけなんで、午後からは…」
『そっか・・・』
「え、な、なんなんスか…?」


あれ、もしかして、

これって・・・


『会いたい、んだけど』
「!?」


青峰っちの口からは聴いたことがなかったまさかの言葉に面食らった。あの青峰っちが・・・俺に・・・?


『おい、何か言えよ…』
「え!あっ、はい!俺も会いたいっス!」
『…ん。じゃ、そういうことだから』
「えっ、ちょっと待って…!」


自分だけ言いたいことは言って、人の話を聞かないなんて、失礼な人だ。

「青峰っち・・・」
『なんだよ?』


俺だって、ずっとずっと。

もうずっと言いたかった。


「好きっス・・・」
『あっ!?んだよそれ!』
「青峰っちは?」
『え…っあ、まぁ…』
「…」
『…〜ッ、だよ、くそ!』
「き、聞こえないないっス!」







『…だから…っ!!


スッゲー好きだって言ってんだよ…!!!』




──もう・・・。

どんだけかっこいいんスか、青峰っち。

メールも電話も全然マメじゃないし、乱暴だし強引だし意味わかんないし、なのになんで?

なんでこんなに、俺は泣いてんだろう。


「ずっと、さみしかったんスよ・・・?」
『黄瀬…』
「あいたくて、でもこまらせちゃいけないから…っ、ずっと…」


ひとつひとつ、絞り出すように出した声は、自分が泣いていることがバレてしまうほど震えていた。


『…俺、お前のことになるとさ。どうしていいかわかんなくなるんだよ。』
「青峰っち…」
『だから、知らねぇ間にお前のこといっぱい傷付けてるかもしねぇけど・・・

それでも俺は、お前が好きだ』



こんなにも幸せな気持ちなんて、世界中のどこを探しても見つからない気がする。
世界で一番好きな人に“好き”と言われることがどんなに嬉しいことか、青峰っちと出会う前までは分からなかったのに。



「俺ら、不器用すぎっスね・・・」

『まぁ本当は俺だって、・・・』
「え、何なんっスか?」
『…っ、まーいいや。明日言ってやるよ』
「えー!超気になるっス!」
『うっせ。じゃあ、また明日な』
「…ん。また、明日」


好きとか嬉しいとか寂しいとか、本当はもっと伝えたくて。


俺らはきっと、

もうちょっとだけ素直になったほうがいいのかもね。








-END-

「黄瀬!てめぇ何やってたんだよ!!遅刻すんなっつったよな!?外周5周してこいアホ!!」
「そっ、それは勘弁してくださいっス!!!」

全部青峰っちのせいっスよ!!

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ