サカナさん

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過去のことはまったく気にならない、と言ったら少し嘘になる。

俺が今、黒子の傍にいるように、かつては青峰が黒子の傍にいた。俺の知らない時間がある。どうしても埋められない時間が俺達の間にはあって、それが妙に切なくなった。

正直、本当に俺でいいのか。そう思ってしまう自分がいた。本当は、青峰とか、他の人が黒子の傍にいるべきなんじゃないのか。

嫌な思考だけが頭の中でぐるぐる回って、それを吐き出すように大きく溜息をついた。(あ、またひとつ幸せが逃げていったかも)

俺と出会う前の黒子は、どんな感じだったんだろう?青峰に見せていた表情は、今俺に見せている表情よりもずっと、

・・・ずっと鮮やかなものだったら───





────────
────
……




「─…くん、火神くん!」

「!?」


ふと我に返ると、目の前には心配そうな表情で俺を見つめる黒子がいた。一人物思いにふけっていたため、黒子は不機嫌だった。

「僕の話聞いてました?」
「え?…あぁ〜…たぶん…」
「…全然聞いてませんね」
「悪りぃ…」


“俺に出会う前のお前ってどんな感じだったの?”とか、
“俺ってお前の中で"特別"な存在?”とか、
“本当に俺でいいの?”
とか…
こんなガキみてぇなこと聞けねぇだろ。(それより、こんなに俺って臆病だったっけ?)



「どうしたんですか。さっきから変ですよ、火神くん」
「…いや、何もねぇよ」
「…」
「…っ、何もねぇって…」

疑い深い目でこちらを見ている黒子に、思わず動揺した。

「火神くんが嘘ついてるなんて、すぐにわかります。何かあったんなら話してください」


きっとこれは、黒子にどうしてほしいとかそんな押し付けた不満じゃなくて、単純に俺の弱さに問題があるからだ。(今以上を欲しがって、求めてばっかりの、世間知らずなガキだから)

「別に、お前には…関係ねぇよ…」

そんな自分に嫌気がさして、全て投げ捨てるようにそう言った。俺、ほんと最悪だな。何八つ当たりしてんだろう。

だけど、返ってきたのは思いもよらない言葉だった。



「関係なくは、ないです」
「…は?」

「恋人が困っていて、助けてあげたいと思うのはいけないことですか?」


いつになく真面目な声で話す黒子の瞳に、ドキリとした。

「え、っと…いや、別にいけなくはねぇ、けど」
「──だから、困っている火神くんは放っておけないんです」

真っ直ぐ俺だけを見て言い放った言葉は、嘘じゃない。俺にはなんとなく分かった。
(なんとなく、答えが出た気がした)


「俺さ、お前のことになると、途端にダメになるんだよ」
「え?」
「埋められない時間とか、お前の過去とか、全部が気になる」
「…」
「お前が選んだのが俺で、本当に良かったのか…とか。不安だった」
「…」

ひとつひとつが繊細に、素直に口から零れる言葉を、黒子は何も言わずに聞いていた。

「だけど、俺さ。やっぱお前のことスゲー好きだし、ずっとお前の傍にいたいって思う。埋められない時間に足掻くより、お前と過ごすこれからの時間を大切にしたい」


悩んで走ってたくさん遠回りをした。でも、結局出た答えは、驚くほど単純なことだった。


「火神くんは、それでずっと悩んでたんですか?」
「まぁ…」

「……火神くんってとことんバカですね」
「は!?」





「だけど僕は、そんな火神くんが誰よりも大好きです」

そう呟いた後、黒子は俺に歩み寄り、背中に手を回してギュッと抱き着いてきた。

「僕も火神くんをもっと知りたいし、この先もずっと、火神くんの傍にいたい」

──僕も火神くんと同じ気持ちなんですよ?



重なった体温が、優しく響いた声があまりに心地好くて、
何故か少しだけ泣きそうになったのは秘密にしておこう。




 君を彩る全ての要素を
 僕が守ってみせよう

 何があっても傍にいよう

 君が悲しむ全ての要素を
 僕が奪うから


 ありったけの愛を...



(君がいるのなら、何だって叶えられるそんな気がするから)
(届けるね 愛を、愛を...)



【code】


-END-

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