サカナさん

□sly
1ページ/1ページ





「火神くんはずるいです」

バニラシェイクをじゅるりと飲み干して溜め息混じりに呟く黒子を、火神はハンバーガーを口一杯に頬張りながら見ていた。

「ん…ほーひうほほ?」
「口に物を入れながら喋らないでください」


黒子に注意を受けた火神は、口の中に入っている物を全部飲み込んだ後にもう一度「ずるいってどういうことなんだよ」と聞いた。でも、火神の問い掛けには「さぁ、」と曖昧な言葉だけを残して、さっさと自分の分の会計を済ませた。

黒子の言葉によって頭の中が疑問符でいっぱいになったが、最後の一口を口の中に入れ、とりあえず自分も会計を済ませる。ありがとうございましたー、と店員の声が聞こえて、火神は店から出た。



*



肌寒い風が吹いて、思わず身震いをした。二人並んで歩く帰り道は、季節のせいかいつもより心細くなった。

「なぁ、くっついていいか?」
「…何でですか」
「寒いじゃん」
「僕は寒くありません」

嘘つけ、と火神はさっきまでポケットに入れて少し暖かくなった右手を、黒子の頬にくっつけた。

「ほら、冷てぇじゃん」
「…っ」

火神のあどけない笑顔を見て、顔が赤くなったのが自分でも分かった。
どうしてこの人の笑顔を見ると、あぁ、自分のものにしたい──なんて思ってしまうんだろう。
黒子は、火神の視線から逃げるように背けた。

「ハハッ、なに照れてんだよ」
「照れてません」
「顔真っ赤だぞ」
「火神くんは恥ずかしい人だなって思っただけです」
「なんだよそれ!」

火神と出逢って黒子は、確実に何かが変わったような気がしていた。高鳴る鼓動の理由も、会いたい夜も、甘くて苦い想いも、全部。全部が火神に対する“愛”が教えてくれたことで。

「黒子、手繋ごうぜ」
「は?…だって人が…「大丈夫だって」

黒子の言葉を遮るように言って、気が付けば黒子の冷え切った手は、あっという間に火神の手に握り締められていた。


「な、あったかいだろ?」



──やっぱり火神くんはずるい人だ。

(僕がどれだけ君を好きかなんて、どうせ君はこれっぽっちも分かってない)









[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ