クジラさん

□桜の光
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随分と温かくなったなぁ、なんてニュースのお花見情報を見ながら思う。なんか、そうだな、この季節は賑やかで好きだ。青峰っちはこういうの、なんだか苦手そうだな。だって食べたらすぐに寝てしまいそうだし?花なんかに興味なんてないだろうし。

でもやっぱり好きな人とお花見とか行きたいなーって。キャプテンがそういうの企画してくれさえすれば簡単なんだろうけど、あの人はそんな事するなら練習しろって言いそう。
女の子と行こうとも思わないし、だって俺には青峰っちが居るから。まぁ、青峰っちが居れば最終的に何でも良いってわけなんだけど。


そうして俺が考え事をしながら部屋の中でごろごろしていると、隣で雑誌を読んでいた青峰っちがテレビに目を移しながらこう言った。



「今度、花見行くか」




「・・・え?」



何で?と、思わず聞いてしまいそうになった。けれど青峰っちの気が変わって欲しくなかったから、「うん、行きたい」と、舞い上がる気持ちを抑え静かに頷いた。




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それから二日後の夜。
いつも通り二人で部活が終わった後もバスケして、さぁこれから帰ろうって時に青峰っちが「じゃ、行くか、花見」なんて意味分かんない事言い出して。「はぁ?もう何時だと思ってんスか・・・」と、溜息混じりに訊ねた。

「良いじゃん、行こうぜ」

青峰っちがそう笑顔で言うから、俺に断るなんて出来る筈もない。そもそもあれだけ行きたいと願って、実際にそれを青峰っちが叶えてくれるんだからもちろん嬉しいのだけど、でも、今からって・・・。

「この近く花見出来る場所あったかな・・・ちょっと携帯で調べ・・・」
「そんなん良いっつの。ほら行くぞ」
「えっ・・・ちょっと待っ」

半ば強引に腕を引かれ、向かった先は体育館の二階にある観客席だった。そこから両脇にある細い通路を渡って、その先にある窓の前で青峰っちは止まった。
体育館の電気は全て落としていたから、正直青峰っちに腕を引かれて助かったのだけど、でもこんな所に来てどうするのだろう。



「ここが多分、一番綺麗だぜ」

そう言って、青峰っちは窓を開けた。










「ぅ・・・わぁ・・・・」





俺の目に飛び込んで来た景色は、とても、明るかった。
桜の花々の隙間から、学校の外の敷地にある建物から放たれる煌びやかな光が漏れて、まるでそれがきらきらと輝く星の様な美しさを保っていた。

「な?綺麗だろ?」
「うん・・・」
「ここで初めて見た時さ・・・」

青峰っちが、俺の手を自分のそれで優しく包んだ。

「絶対お前と見たいと思った」



悪いな、付き合わせちまって。なんて。

そうやってらしくもない事を言うから。

俺は。







「何お前、泣いてんの?」
「う、っさい・・・!ばか!」
「泣き虫だなテメェは」
「だって・・・、嬉しいんッスよぉ・・・」

青峰っちが俺の頭をポンっと撫でた。
その感触が心地良くて、その幸せにまた涙が溢れた。
ただこうして、俺と美しい景色を見たいと思ってくれるだけで、胸がいっぱいになる。怖いくらいに満たされて、もう何もいらないなんて思ってしまう。



桜から漏れる光が、青峰っちの横顔を照らしてて、正直そっちをずっと見ていたいと願った。ずっと、ずっと・・・ありえないのだろうけど、それでも。
例え季節の過ぎた桜の様にこの恋が枯れてしまっても。




好きだよ・・・。











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