クジラさん
□徒花
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もう、やめませんか。
久々に会ったテツが呟いた言葉は、それだけで俺を黙らせるには十分だった。
言っている事の意味が分からないわけじゃない。それでも、俺には・・・。
「何で」
時間はかかったが、ようやくそれだけ絞り出して、テツに問うた。
テツは困った様に眉を寄せたが、俺は視線を逸らせなかった。
「・・・僕達は、もうお互いを保険にしなくても良い」
「・・・・・」
「キミにも、ちゃんと大切に想う人が居るでしょう?僕にも・・・居ます。だから、もう・・・やめにしましょう」
分かってはいた。
ああ、テツは火神が好きなんだなって。
それに対して俺は何の感情も抱かない時点で、中学の頃から続いているこの関係がどれだけ歪なものであるかには気付いていた。
だけど、それでも俺にとってこの関係はテツを失わない為の唯一の綱だった。
好きだと互いが勘違いして、それでもすぐにそれが間違いだと。
俺達は分かっていたのに、失いたくなかった、たったそれだけの滑稽な理由で未来を潰し合って来た。
それを今更。
「僕は、キミにもちゃんと好きな人と一緒に居て欲しい」
「もう、僕を理由に彼への思いを封じ込めたりしないで・・・」
僕達の関係は、これ以上続けるだけ・・・無意味なものです。
そう言って、テツは本当に俺の前から消えた。
俺が、ずっと前からアイツを好きだったって、誰にも言ってなかったし、自分でも分かっていなかった。だから気付いたのはテツだけ。テツだからこそ・・・かもしれない。
怖かった。俺を一番理解しているテツ以外の人間を好きになってしまう事が。
テツもそうだった筈だ。だから俺達はこうして、中学を卒業してもこんな関係を続けていた。
関係とは名ばかりのもので、実際に何をするでもなかったが、それでも俺達は繋がっているんだと錯覚するしかなかった。
俺は一人を装いながら。
本当に一人になるのが怖くて。
だからテツさえ居れば良いと思っていた。
なのにアイツと試合で会った時。
どうしてこんなに眩しく映るのだろうかと疑問に感じた。
俺は、テツを失ったら何が残るんだろう。
『青峰っち』
俺には、何が在るんだろう。
終