クジラさん

□White Xmas.
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今日は年に一度のクリスマス。
恋人同士である火神と黒子が共に過ごすのは至極当然なワケで。
冬休みという事もあり、早めに部活が終わったので自分の家に黒子を呼んだ火神は、取り敢えず夕飯の支度をしてからゆっくりしよう決め、とキッチンに立った。
冷蔵庫には黒子が買って来たケーキも入っている。黒子は少食なのでケーキを食べる事を考慮しながら、夕飯の材料を適当に調理して行く。

ふとリビングを見ると、黒子が携帯に耳を当てて喋っていた。おそらく親に今夜帰れない旨を伝えているのだろう。

「今日は、火神君の家に泊まるよ。・・・うん、分かってるって。じゃあ」

そういえば、と火神は思う。
一度試合中に黒子に殴られた時、黒子は「1人で勝っても意味なんてないだろ」と、敬語の抜けた喋り方をしていた。
その時は口調について何も思いはしなかったが、感情が昂ぶった時だけでは無く、家族にも敬語は抜けるものなのだと初めて気付く。

「なぁ・・・黒子」
「何ですか?」

何故だか、それでは自分が黒子の内面でなく、外側の顔だけしか見えていない様で・・・もっと特別でありたいと、傲慢な事だと思いつつもその願いを抑える事は出来なかった。

「今日だけで良いからさ。敬語じゃなく、タメ口で話さねえ?」
「・・・え?」

黒子は少し驚いた様な顔をして、そして数秒考える様な動作をしてから、簡潔にこう言った。

「無理です」
「何でだよ!」
「恥ずかしいじゃないですか。昔から人にはこういう口調なんで、今更直せませんよ」

そう言われ、火神はあからさまに不機嫌な顔になる。それを見た黒子が、首を傾げながら訊ねた。

「何でそんな事言い出すんですか」
「だって、他人行儀だろーが。俺はお前の素が知りたいんだよ」
「そうですか?これでも火神君には精一杯素で接しているつもりなんですけど」

黒子からしてみれば、あまり素直でないのは火神の方だろうと思う。それなりに、見ればその時の気分みたいなのは読めるが、時々無表情で何を考えているか分からない時がある。
それがきっと、火神が本当に表に出す事の無い感情を考える時の、素の顔なのだろう。

「僕だって、火神君の全てを知りたいし、見たいんです。お互い様でしょう?」
「見せ合ったら良いじゃん」
「そんなに簡単な事ではないですよ」

そう笑って、黒子は火神の隣に行き「手伝います」とエプロンを着けた。
火神はまだどこか納得のいっていない様な、不満気な顔をしている。「そんな風に言って貰えるのは嬉しいです。今日は可愛いですね」と言うと、「そりゃお前だ」と火神は返した。最初水道は冷水だったが、黒子が来たので火神は温水に切り替える。

「お前の事になると、何か、何もかもが煩わしくなる。考える事とか、悩む事とか。そういうのがお前を見ると何倍にも膨れ上がっちまう。・・・何でだろうな」

苦笑する火神に、黒子は愛おしさを感じた。
ああ、この人も同じだ。同じなんだ。そう思うと、不思議と胸の奥が熱くなった。

「好きだから、じゃないんですか?」

少し図々しかったかと思ったが、言わずにはいられなかった。火神が自分と同じならば、きっと、そういう事なのだから。

火神は大きく身体を傾げ、黒子は首を伸ばし、どちらかともなく唇を合わせた。
触れるだけの、優しいキス。

お互いの体温が伝わるだけで、蕩ける様な幸福を感じた。


「あ」

火神が窓の外を見て、声を上げる。
2人は軽く手を洗ってから、それをタオルで拭い、ベランダへと通じる大きな窓に近寄った。
空からは、白い綿の様なものが、キラキラと降り続けている。

「雪、ですね」
「へぇ・・・綺麗なもんだな」

珍しく景色に感動する火神を見て、黒子は、そういえば自分も雪を見てわざわざ綺麗だと思った事はなかったのに、今日は特別美しく感じている自分に気付く。

「きっと、キミのおかげですね」
「ん?何が?」
「何でもないです」

クリスマスに降った雪が、二人の心を澄み渡らせて。

「来年のこの日も、一緒に居てくれる?」

だから少しだけ、こんなに素晴らしい日なら、サービスをしたって良いだろう。

くしゃり。黒子の頭を、火神の大きな手が包んで撫でた。同じ事を思ってしまった火神の顔は少しだけ赤みを帯びていて。

「当たり前だろ、黒子」

そう、頷くしかなかった。






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White Xmas.







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