クジラさん

□Say.
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黄瀬は我儘で、何でもすぐに口に出してしまう性格と思われがちだが、実際にはそうじゃない。
今日だって、屋上で昼飯を食っていたら黄瀬があまり俺を見なくて。
そういう時ってのは大抵、俺に何かして欲しくても遠慮して何も言えなくて、そういう風に黄瀬はできてる。
俺はそれに気付いても、何をして欲しいのかまでは分からない。そこは口で言ってもらうしかない。
「言えよ」て黄瀬の耳元で呟くと、アイツは真っ赤になって「うー」と唸る。それが可愛くてついついいつもからかってやりたくなるんだ。
言う気になって、それでも恥ずかしいからって視線を逸らす。黄瀬の望みはほとんど「キスして」だとか「手ぇ繋ぎたい」とか、そんなんばっか。
そんなもん自分からどんどんしてくりゃ良いだろうに。何を怖がってるのか、アイツからぐいぐい来ることは滅多に無かった。




「言えよ」
「・・・ん」

今だって、そうだ。
黄瀬は俺にそう言って貰うのをどこか期待でもしていたかの様に、表情を綻ばせた。
それが可愛くて仕方ない。俺は黄瀬の頭をガシガシ撫でてから、頬に軽く口付けてやった。

「青峰っち、抱きしめて?」

そう言われて、この俺が断る筈が無い。
誰が見ているかも分からないが、そんな事すらどうでも良くなって、俺は黄瀬を抱きしめた。
こいつが俺を貪欲に求めてくれるから、俺自身も満たされてる。

いや、違う、きっと。
俺の方がもっと、こいつに触れたいと思ってしまっているんだろう。
黄瀬が「俺に触れられたい」と思ってくれてたら良いのに。そう願うからこそ、黄瀬がいつも見せるあの表情をすぐに察知出来る。
俺が黄瀬を引き寄せたいだけなんだ。

「あったかいッス」
「そうだな」

黄瀬が笑ったから、俺も笑った。
こいつがずっと俺を求め続ければ良いのに。もっと夢中になって、俺だけを映していれば良いのに。その為なら、きっと俺は黄瀬のどんな我儘や願望にだって応えられる。

だから、言えよ。
俺が欲しいって、言え。









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