クジラさん

□星空の下
1ページ/1ページ





「星って、不思議ですよね」

そう、黒子が突然言った。
部活帰り。冬だという事もあり、外はもう完全な暗闇となっている。黒子は某然と空を見上げていて、その表情はどこか大人びて見えた。
俺が「何でだ?」と聞き返すと、黒子は空から視線を逸らさずに答える。

「理屈では理解出来ているんです。何故光っているのかとか、どうして冬に見る星は綺麗なのか、とか・・・」

「それで?」

「・・・理解出来ているのに、想像の範疇を超えているというか」

「・・・・・はぁ?」

俺は黒子の言っている事が分からなかった。
想像の範疇?何だそれ。ていうか星の事とか考えた事なんてなかったっつーか。

「想像しませんか?この星は近くに在るように見えて、実際はすごく遠いんです。その距離や宇宙なんかの事を考えると・・・すごく、途方もない壮絶な事のように思えて・・・」

黒子の声が、少しずつ不確かなものへと変わって行った。おそらく自分でも何が言いたいのか分からなくなったんだろう。

そんな黒子を見て、俺は理解した。
ああ、コイツ。寂しいのか・・・って。

「宇宙ってでけーからな。俺らなんてちっぽけなもんなんだろ」

「はい。そうですね」

「でも、俺はこんなちっぽけな存在に生まれて良かったって、今思った」

そう俺が言うと、黒子はようやく空から俺へと視線を移した。
ああ、やっと見たかって。安堵する。

「難しい事考えてんじゃねーよ。そんな事考えるから、不安になんだよ」

「・・・何で分かったんですか」

「俺にとってお前は、理解の範疇だから?」

黒子は俺の言葉に、不機嫌そうに呟いた。

「なんだか狡いです」

その様子に俺は思わず吹き出してしまって・・・。
寒そうにしている黒子の手を掴み、引き寄せた。

「ほら、早く帰ろうぜ」

「はい」

握った手を、黒子が握り返してくれて。
それだけで、これで良かったって心から思える。

黒子が自分の存在に、常に不安を感じているのは知っていた。
だから俺が、俺だけが、コイツを少しでも分かってやれたら。



ずっと、傍に居てやれたら・・・。



黒子の口元が綻んで、俺を見上げる。
それだけで胸が詰まった。







[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ