クジラさん
□星空の下
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「星って、不思議ですよね」
そう、黒子が突然言った。
部活帰り。冬だという事もあり、外はもう完全な暗闇となっている。黒子は某然と空を見上げていて、その表情はどこか大人びて見えた。
俺が「何でだ?」と聞き返すと、黒子は空から視線を逸らさずに答える。
「理屈では理解出来ているんです。何故光っているのかとか、どうして冬に見る星は綺麗なのか、とか・・・」
「それで?」
「・・・理解出来ているのに、想像の範疇を超えているというか」
「・・・・・はぁ?」
俺は黒子の言っている事が分からなかった。
想像の範疇?何だそれ。ていうか星の事とか考えた事なんてなかったっつーか。
「想像しませんか?この星は近くに在るように見えて、実際はすごく遠いんです。その距離や宇宙なんかの事を考えると・・・すごく、途方もない壮絶な事のように思えて・・・」
黒子の声が、少しずつ不確かなものへと変わって行った。おそらく自分でも何が言いたいのか分からなくなったんだろう。
そんな黒子を見て、俺は理解した。
ああ、コイツ。寂しいのか・・・って。
「宇宙ってでけーからな。俺らなんてちっぽけなもんなんだろ」
「はい。そうですね」
「でも、俺はこんなちっぽけな存在に生まれて良かったって、今思った」
そう俺が言うと、黒子はようやく空から俺へと視線を移した。
ああ、やっと見たかって。安堵する。
「難しい事考えてんじゃねーよ。そんな事考えるから、不安になんだよ」
「・・・何で分かったんですか」
「俺にとってお前は、理解の範疇だから?」
黒子は俺の言葉に、不機嫌そうに呟いた。
「なんだか狡いです」
その様子に俺は思わず吹き出してしまって・・・。
寒そうにしている黒子の手を掴み、引き寄せた。
「ほら、早く帰ろうぜ」
「はい」
握った手を、黒子が握り返してくれて。
それだけで、これで良かったって心から思える。
黒子が自分の存在に、常に不安を感じているのは知っていた。
だから俺が、俺だけが、コイツを少しでも分かってやれたら。
ずっと、傍に居てやれたら・・・。
黒子の口元が綻んで、俺を見上げる。
それだけで胸が詰まった。
終