クジラさん

□All Hallow's Even!
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10月31日、街はどこもかしこもハロウィンの装飾で賑やかに飾り立てられていた。
青峰っちと俺はそんな賑やかな市街を歩きながら、優しいオレンジの色を目に映して歩く。
今日は日曜日。二人はせっかくの休みだからとこうして出て来たのだけど・・・。

「おい、黄瀬。これなんか良いんじゃねぇ?」
「本当ッスねー!あ、こっちなんか青峰っちにぴったしじゃないッスか?」

このバッシュ・・・と言いかけて・・・あれ・・・?れれ?と、首を捻る。
青峰っちとはなんだかさっきからスポーツ用品店しか回っていない気がする。
これってデートなんだろうか。いや、青峰っちが居ればどこに居たって楽しいんだけれど、これって恋人同士がわざわざ休みを使ってまでする事・・・なのか?
いや青峰っちにおしゃれーな事を期待するのは間違いだと自分でも分かっている。けど・・・。

「黄瀬、どうした?」
「へ?ぁ、いや、何でも無いッスよー」
「そうか?じゃ、次行くぜ」

俺が些細な事だろうけど頭を悩ませてるなんて知りもしないで、青峰っちはあらゆるスポーツ用品店を網羅するべく俺を引っ張って歩く。
あぁ・・・もう、この人は何でこんなに自由なんだろうか。

この調子だと、きっと忘れてるんだろう。
明日は学校だし、何よりこの人は脳内の半分がバスケで占められてるんだから。

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朝から散々バスケグッズを探しまくった俺達は、腹が減って近くのファミレスに入る事になった。
二人で向かい合って座って、店員に注文し一息付く。
今日は良い日だな。そう素直に思った。青峰っちが珍しく沢山笑ってくれてるから。
そう思って青峰っちを見ていたら、ふと目が合って・・・何だか恥ずかしくって逸らした。
「何で逸らすんだよ」って不機嫌そうな声。

「青峰っちが格好良いからっすよー」
「そういうのいらねーって。で?」
「いやマジなんスけど・・・」

嘘付け。て青峰っちが言うから、俺も柄に無くムキになって本当!って返した。
俺がどんだけ青峰っちを格好良いと思ってるのか、知らないなんて言わせない。
大好きだし、憧れてる。だから目が合うのはいつだって恥ずかしいんスよ?

「青峰っちはもう慣れたッスか?」
「慣れたって、何に?」
「俺と恋人する事」

青峰っちが驚いた様に俺を見てから、考えるように上を向いた。
この人は恋人らしい事だってしてくれるし、俺がファンに囲まれてたら嫉妬だってしてくれる。
ああ、求められてるんだって。自惚れても良いって思わせてくれる。

けど、これって慣れちゃったらただの気心知れた人になっちゃうッスよね?
だから不安になる。今日のデートなんて、友達そのものじゃんって。

「まぁ・・・慣れた・・・かもしんねぇな」
「そッスか」

そう思ったッス。そんな青峰っちも好きッス。「あ、でもなぁ」
青峰っちは上を向いてまた何か言った。

「やっぱ興奮する。お前見ると」
「ぇ・・・っ」
「これだけは何か、変えられねーわ」
「あ・・・・・青峰っちぃいい!!!!」

そんな事言われたら、今まで悩んでた事なんて簡単に吹っ飛ぶッスよ。
俺って本当・・・幸せ者だなぁ。

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帰り道、青峰っちは俺と手を繋いで歩いてくれた。
少し肌寒くなってきたこの季節に、青峰っちの体温は心地良い。

そうやって彼の体温を楽しんでいると、思っていたよりも早く別れる時間がやって来た。
ここから先は青峰っちとは別々の道に行かなきゃならない。
少し惜しく思いながら、俺は温かい手を解放した。

「今日はありがとうッス」
「おう」
「じゃ・・・また・・・」

青峰っちに手を振って、背中を向けようとした時。
また温かい熱に腕を掴まれた。

「おい黄瀬」
「・・・え?」
「今日ハロウィンだったよな、確か」
「そうッス・・・けど?」
「お菓子、やるよ」

言われて、俺の手に何かを握らされた。
覗いてみるとそこには綺麗に包装された四角い箱。
中は重さ的に・・・多分、お菓子じゃ、ない。

「これって・・・」
「明日、付き合って一年だろ?」
「まさか・・・覚えてたんスか?」

問うと、青峰っちの顔は少しだけ赤くなった。
それが何だかすごく可笑しくて、嬉しくて。

「じゃあ・・・お礼に、俺からの「お菓子」ッス!」

俺は青峰っちを抱き寄せて、その唇にキスをした。









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