遥かなる時

□共同生活1
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ずっと晴明様の羽織を着ていたせいか、ずっとその香の匂いがする。
ゆっくりと覚醒に導かれる意識のなかで、背中に熱いほどの温もりと、お腹のありに感じる圧迫感に違和感を覚えた。
ゆっくりと目を開けると、昨日寝ていた部屋と似ていたが何か違うような感じがする。
確かめようと、もぞもぞと動いた瞬間、お腹の辺りに感じる圧迫感が強まった。

「ッ!!」
昨日の十二単の青白い女を思い出し、一瞬にして息が詰まった。
ゆっくりと振り向けば、そこには私を後ろ抱きにして眠る晴明様が居た。
男にしとくのは勿体無いほど、長いまつげに縁取られた瞳は閉じていて、その下にある唇も、少し緩く閉められていた。

「なんで、一緒に寝てるの?」
一時、晴明様の寝顔に見とれたあと、ボツりと出た呟きだった。
「お前を部屋に運んだが、俺の着物の袖を離さなかったのでな。共に寝ることにしただけだ。」
瞳は閉じたまま、晴明様が答えて来た。
驚いて見つめていると、ゆっくりと瞼が開き、その黒い瞳に自分が写った。
「御手数…掛けました…」
ドキドキと胸があばらを叩いているのを感じながら、なんとか口を動かし伝えた。
「良い湯タンポになった。」
さらりと返された言葉はなんとも失礼で、イラッとした。
「私は生きた人間です!!道具じゃありません!!」
そう勢いよく返すと、くつくつと笑いながら、晴明様は私の頭を撫でてきた。

「元気になったようで、良かったではないか。」
その優しい声と眼差しに、さっきのイラつきの代わりに安堵感が押し寄せてくる。
「気にしてくれてた?」
「守ってやると言っただろう?約束は守るさ。」
「ありがとう、晴明様。」
笑いかけながら、お礼を伝えると
ゆっくりと晴明様が顔を背け袖で口許を隠した。
「晴明様?」
「いや…なにもない。そろそろ、密虫が起こしに来るな。共に朝食にするか?」
私は、少し晴明様の様子がきになったが、一緒にご飯を食べてくれるのならと、頷いた。
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