紫紺の楔
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高尾side
「誠凛」含む3校が探索から戻り、今度はオレ達「秀徳」含む4校が探索に向かった。
福井サンを中心とする「陽泉」は北棟3階から。
花宮サン率いる「霧崎第一」は北棟1階から。
赤司達「洛山」は南棟を3階から。
オレら「秀徳」は洛山と同じ南棟を1階から見ていく、と言う事に決まった。
結果として3階から調べる「霧崎第一」と「洛山」は北棟側の階段を上っていき、北棟エリアではオレら「秀徳」のみ別れる事になった。
大「高尾、周囲への警戒は頼んだぞ」
高「わかってますよ。どっから来たって、オレのこの目でいち早く発見してやります」
宮「頼りにしてっけど、あんま慢心すんなよ。相手はバケモンなんだからな」
高「わかってますって」
緑「……しかし、黒子が言っていた事も気になるのだよ」
大坪サン、宮地サン、そして緑間とオレという並びで探索を始め、オレは自分の目を鋭く光らせる。
先輩達も試合とはまったく違う緊張感を持ち、周囲を警戒してるみたいだ。
2階へと繋がる階段の横を通り、渡り廊下の直前で緑間が小さく呟いた。
宮「【視えない男】ってヤツか」
大「その男に関しては、黒子で言うミスディレクションの類ではないんだろうな。…恐らく本物の“透明人間”というものだろう」
“透明人間”なんて非現実的な存在、今時誰も信じねーし、オレもいい感じに茶化す。
でもそれはこんな状況じゃない“普通”ならの話だ。
怪物とかと接触した今、そんな存在が居たっておかしくない。
緑「襲って来た怪物から誠凛と桐皇を助けた第三者的存在のその男…。その男は何者なんだ…」
誰に尋ねる訳でもなく、緑間は眉間にシワを寄せて考え始める。
緑間も赤司と同じ、その男が何なのか気になるみたいだ。
けど当然かもしれねぇ。
怪物が存在する中、オレらを怪物よろしく襲うのではなく、むしろ助けてくれたのだから。
ならその男は、この状況から抜け出す鍵を握る存在のはずだ。
渡り廊下の重たい扉を開け、オレらは中庭の横を通る。
中庭には野生と化した緑が多く繁っていて、見晴らしは良いものの、場所によっては物陰が出来ている。
そう言った場所に怪物が身を隠しているかも知れねーから、更に注意を払った。
――優しい飴色の髪が印象的でした…。
ふと、赤司達に説明していた桜井の言葉が気になった。
例の【視えない男】を唯一目視したと言う桜井は、その男の髪をそう話していた。
“飴色の髪”
たったそれだけの証言では、誰1人と、例え赤司だろうと男の容姿を想像する事は出来ないだろう。
けどオレの脳裏に、唯一知る飴色の髪が浮かんだ。
確か最後にその人を見たのは彼の卒業式。
まだ3月に入ったばかりだと言うのに、珍しく咲き始めていた一本の桜の前に立つその人の手には卒業証書。
周りにはその親友達が立っていて、泣いてたり、笑ってたりしていた。
そんな中、その人は趣味だと言っていた写真に、泣き笑いする親友達を収めていた。
オレはその人に声を掛けようと口を開いた。
瞬間、ブワッとまだ冷たさの残る強風が吹いた。
巻き上がった砂埃が口内に入り込み、オレはむせてしまった。
オレに気付いたその人は、むせているオレを見て笑った。
強風に煽られ、数少ない桜の花びらが散る。
その花びらは、日の光を反射するその人の飴色と相まって、とてもキレイだったのを覚えている。
詩興を持ち合わせていないオレだったが、その時だけは、瞬間的にそう感じた。
少し耽ってたらしいオレに、緑間が怪訝な表情を見せた。
バレないように横目で盗み見してるみてーだけど、ホークアイを持つオレには見え見えだ。
いつもの調子で緑間をからかう。そうしたらヤツはいつも通りのツンを返してくる。
思いの外長い間耽ってたみたいで、そろそろ南棟に入る。
再度怪物が居ないか確認する為、中庭を視る。
南棟のとある片隅にはかなり小さい社が建てられているみたいで、鳥居もしっかり建っている。
社周辺にも異常がない事を確認し視界から外した。
「……………?」
視界の端で、一瞬煙が上がったように視えた。
宮「高尾、どうかしたか?」
高「………」
緑「高尾…?」
煙が上がったと思われる場所を風が通過し、オレの髪を揺らした。
風がオレ髪を梳かすと、フラッシュバックのように何かが脳内に写り込んだ。
それは優しい飴色の髪を持った男。
高「ぇ………」
男子高校生の平均より少し高めで、体育会系ではないのか中肉の体つき。
そんな脳内に写り込んだ男の姿は、先程思い浮かべていた人によく似ていた。
いや、あの髪色は……もしかしなくとも………
高「―――鳴海…サン……?」
無意識に、その人の名前が零れた。
―――――---……‥
――---…‥
その後、南棟を1階から調べていき、洛山メンバーと合流した。
その間、そして洛山側も手掛かりも怪物も見付けていないそうだ。
更には他のグループと合流するが同様の結果だったみてぇだ。
赤「と言う事はどこの学校も、誰一人として【視えない男】とも接触無しか……」
体育館に戻り、再び情報交換を行う。しかし上記の通り、何の進展も無い。
顎に手を当て、珍しく手詰まりだと解る表情を見せる赤司に、みんな焦燥を覚えてるようだ。
宮「そう言や、さっきの何だったんだよ」
沈黙を破る形で宮地サンがオレの方を見た。
赤「さっき……とは?」
赤司の目が鋭く光る。
しかもその目はオレを捕らえてるから、正直すげぇ迫力。
獅子に狩られる獲物って、こんな気分なんだな。
宮「渡り廊下を通って南棟に入る時、やたら中庭を気にしてたんだよ。しかも何か呟いてたみてぇだったし…」
ギクリ、とオレは明白に肩が跳ね上がった。
赤「高尾くん、中庭で何か視たのか」
赤司の訊ね方は疑問符なんて付いてなくて、明らかオレが何かを視たんだと決定付けている。
けど、直接“視た”訳じゃない。確証だってない。
そもそもあの人がここに閉じ込められる理由がない。
ここには、かつてIHやWCで戦った【バスケ部員】と言う共通点がある。
けどあの人は、バスケどころか体育会系の部活には入っていないはずだ。
オレは俯いていたが、ホークアイがあるから赤司が更に眼力を強めたのがわかった。
そしたら、緑間が窺うような視線を送ったのが視えた。
緑「高尾、“鳴海さん”とは誰なのだよ」
高「!!!!」
オレは反射的に顔を上げた。
緑間がさっきオレが零した名を挙げた事に、……ではなく。
(なんだ…、なんか……)
オレ自身もよく解らないが、今中庭に行けば……会えるかも知れない。
そんな感覚に駆り立てられ、オレは驚く面々に目もくれず、一目散に中庭に向かった。
緑「―――高尾っ!!」
――――---……‥
怪物を警戒しつつ、オレは視えない力に引かれるように中庭へ走る。
重たい扉を荒々しく開けて、中庭に飛び出した。
自身の目を駆使して、中庭全体を隅々まで見回す。
しばらく見回していると、懐かしい色が視界の端に視えた。
そこに視点を向けると、小降りな社の前に“あの人”が立っていた。
後ろ姿だけだが、オレは一瞬息が止まった。
半信半疑でその人の背中を見てたら、その人はゆっくりとオレが居る方向を振り返った。
記憶よりも背が伸びていて、纏う雰囲気も少し大人びているが、オレが知るその人で……、
高「―――っ、鳴海サンッ…!」
『!!!!』
唇が震え、けどオレはその人の名を叫び、走り出した。
なんでアンタまでここに居るのか、怪我はしてないだろうか、とか…なんとも言えねーゴチャ混ぜな感情がオレん中で渦巻いてっけど、とにかくオレはその人、鳴海サンのとこまで走った。
鳴海サンは驚いたように目を見開いていて、オレは勢い任せに飛び付いた。
高「は、うおッ…!!?」
けどまさかの躱しを受け、オレはバランスを崩すものの、持ち前の運動神経で体勢を戻した。
高「避けるとか酷くねっ!?」
『わ、悪い。いや、つか…やっぱお前も、ここに居たんだな…』
大して気にしてもいないがそう叫ぶと、鳴海サンは申し訳なさそうに謝ってくれた。
昔と変わらない鳴海サンのそれに、オレは口角を上げて「別にいいっすよ」と言った。
二言三言の言葉を交わし、本当に変わってない鳴海サンに少し嬉しさを感じた。
『――出来るなら、こんなとこにお前が居るなんて思いたくなかったよ……高尾』
困ったように眉を下げ、溜め息を吐きつつオレの頭に手を置く鳴海サン。
やっぱこう言うとこ変わってねーなぁ。
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