紫紺の楔

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発言し、再び桜井に一同の視線が集まる。



伊「視たって……」


桜「僕らが怪物に襲われた時、急に防火扉が閉まったんです。たぶん、“その人”が助けてくれたんじゃないかと…」


黒「なるほど、だからさっき今吉さんは“ワシらも助けられた口”と言っていたんですね」


今「ああ、そや。そっちの主将サンは“信じられへんかも…”とか言ぅてたけど、ワシらも現に目の当たりにしとるんや、信じるしかないやろ、その“第三の何か”の存在を」




火「ちなみによ…その男…どんなヤツだった…?怪物をどうにかしちまうなら、やっぱ…アレか?バケモンみてぇなナリか…!?それとも洛山のあの根武谷並みのマッチョとか…」

質問しながら、火神はガクガクと震えている。恐らく自身が例に挙げたバケモノみたいな男を想像してしまったのだろう。


木「何、俺達を助けてくれたのはバケモノなのか!? 俺達腕掴まれたぞ!! 大丈夫なのか!!?」


日「まだ何も言ってねーだろ!黙って話聞いとけッ!!」



黒「桜井くん、どうでしたか?僕も正直、【視えない恩人】がどんな方なのか気になります」


伊「【視えない恩人】って…」

目を輝かせ桜井に尋ねる黒子に、誠凛メンバーは苦笑いを浮かべた。
一方で、そんな黒子を見慣れていない桐皇メンバーは少し驚いている。
尋ねられた桜井に至っては、反射的に謝ってしまう。


黒子は読書が趣味である為か、作中の登場人物のような存在である“件の男”に余程興味があるようだ。




桜「…スイマセン!その、黒子さんが期待するほど、詳しくは視てないんです!本当にスイマセン!……でも」


黒「でも…?」


桜「優しい飴色の髪が印象的でした…。あ、あと…火神さんが想像したようなバケモノでも、筋肉質でもなかったです……」


桜井の説明を聞き、火神は目に見えて安堵の息を吐いた。




桜「ただ…僕が見た時、その人は消えたり、ボヤけて見えたりと…なんと言うか……」


火「消えっ!!? や、やっぱりバケモノか…!?」


桜「いえ、そういうわけじゃ…。閉じた防火扉に凭れ掛かるように立っていて…、まるで疲れているみたいでした…」


その場に居た者は、互いに顔を見合わせた。


また1つ、この廃校に【視えない男】と言う謎が増えた。





――――---……‥




「あーー!黒子っちー!青峰っちー!」


とにかく一度、拠点となっている体育館に戻ろうと言う話になり3-6から出ると、美しい金髪を持った少年が腕をブンブン振りながら駆けて来た。



黒「海常の皆さん、それに黄瀬くんも」


黄「あれ!? オレの方がついでっスか!!?」


笠「おいこら黄瀬ぇ!!!急に走り出すんじゃねーよ!!! もしはぐれたりしたらどうすんだよ!!!」

黄瀬の後を追い、海常グループも彼らと合流する。



今「なんや、結局全員集まってもぅたなぁ」

今吉の言った通り、今回探索に出たのは「誠凛」「海常」「桐皇」の3グループ。

結果として、この場にすべての探索チームが揃った事になる。



日「そっちは何か収穫ありました?」


笠「いや、まったくと言っていい程ねぇよ。そっちは何か掴んだか?」


日「俺らも桐皇も、これと言ったもんは何もっすよ」

笠松と日向は互いに溜め息を吐いた。
訳の解らない廃校に連れて来られ、しかも出口は存在しない。挙げ句の果てにこれと言った情報も得られないなど、かなり精神的にくる。



黒「まぁ、まともな探索はこれが初めてですしね。それまでは個人で互いを捜索し合うだけでしたし」


小「まだ探索に出て1時間しか経ってないからな。これからだろ」

小堀は自身が持っていたストップウォッチを見て、さほど時間が経っていない事を伝える。



伊「少し早いけど、俺達は一度体育館に戻るつもりです。海常はどうするんですか?」


笠「そうだな…俺達も体育館に戻るか。北棟と南棟の3階を見たが何も……いや収穫は無かったからな」


あえて一度言葉を濁した笠松。
そんな彼の行動に、数人は“何か”あった事を察した。


3つのグループは互いの背後や頭上、廊下や階段に気を配りながら、無事に体育館に戻る事が出来た。

ちなみにこの廃校には、大きな体育館が2つ設けられている。
それらは隣り合って建っている一方で、校舎からは第2体育館しか入れない。

第1体育館は校舎への扉が閉ざされており、利用する事が出来ないのだ。





「――ずいぶんと早かったね。何か収穫でもあったかい?」


黒「赤司くん」


笠「残念ながら出口はどこもねーし、手掛かりになるもんも無かったよ」


体育館に戻ると、出口付近に居たらしい赤司が声を掛けてきた。




青「つか紫原のヤツ何やってんだよ」


伊「残像が見える程の速さで床を転げ回ってるな…」

木「おお、凄いなぁ紫原〜!」



赤「ああ、あれは…」









紫「ホントあり得ないしー!せっかく早く練習終わって、コンビニで冬季限定お菓子買おうと思ったのに〜!!」


氷「アツシ、気持ちは解るけど、こんな事になってしまった以上、どうしようもないだろ?」


紫「嫌だし!室ちんにオレの気持ちなんか解る訳ないしー!」


福「つかみっともねーから止めろッ!!大人しく座っとけ!」

劉「でかい駄々っ子アル」




赤「――見ての通りだよ。敦がお菓子切れで暴れているんだ」



黄「何スかマジであれ!? 究極のダダっ子じゃないスか!!! ダダのこね方極め過ぎでしょ!!?」

早「うおぉぉお!!ダダこね過ぎで、側に居(る)氷む(ろ)の髪が靡(ナビ)いて(る)ぞっ!!!」


笠「てめぇら二人共うっせーよ!!紫原もいつまでも床に寝そべってんじゃねーよ!」


探索を終えたメンバー達は、思い思いの場所に移動する。
ほとんどの者は体育館の中心に集まり、互いの距離はあまり離れていない。


しかしそんな集団から一際離れたステージの上、紫原はそこにいる人物に視線を向けた。


紫「ねぇあんた、さっきからガム噛んでるでしょ〜。あんたらの事嫌いだけど、この際我慢するから、ガムちょーだい」


原「はぁ?ガムなんて噛んでないけどー?」

そう言いつつ、彼 原一哉はプクーとガムを膨らませる。



紫「噛んでんじゃん。何なの?我慢してやるって言ってんのにくんないとか。ヒネリ潰されたいの?」


赤「敦、やめろ」

赤司は呆れながら紫原に牽制をかける。



赤「それじゃ、さっき探索に行った3校は僕の所に集まってくれ。どんな些細な事でも構わない。見聞きした事、また探索した校舎内の見取りを話してくれ」


赤司の号令に従い「誠凛」「海常」「桐皇」は彼の下に集まった。
また同時に各校、「秀徳」「陽泉」「霧崎」の主将(陽泉は岡村不在の為福井)も集められた。


探索に行っていたメンバーは遭遇した怪物や、例の【視えない男】について話した。


笠「海常は誠凛と別れてから、北棟3階を始め2階、あと南棟3階を調べた」

誠凛と桐皇の報告を聞き終えた後、最後に笠松が探索内容を報告する。


笠「高尾が遭遇したって言う髪の長い怪物も、誠凛・桐皇が襲われたって言う怪物にも、俺達は遭っていない。ましてや【視えない男】なんて知らねぇ……けど」


笠松は海常メンバーを見遣る。


笠「誰も目覚めていないはずの2-1の教室の鍵が開いていた。……それと、ちょうど森山が目覚めた2-2に入る直前だ…、出たんだよ…」


赤「出た、とは?」


黄「2-1の教室の扉から、こう腕がにゅっ…って!生えたのオレら見たんスよ!」


笠「まあ、そう言う事だ…」


赤「で、その腕はどうしたんですか?襲ってきたんですか?」


森「いや、何て言うか…。その腕も俺達に見られてビックリしてたって言うか…まぁ、一瞬で教室の中に消えたよ」


海常にもあまりめぼしい情報は無く、赤司は顎に手を添え考え込んでいる。




赤「【視えない男】か…」

黒「やっぱり何か気になりますか、その人物が」


赤「まぁね。――それじゃ、更に情報を集めるべく、また別の学校ごとに探索に向かおうか」


赤司の号令に、「秀徳」「陽泉」「洛山」のメンバーが立ち上がる。



花「言っておくが、俺らは参加しねぇからな。互いに協力し合い、出口を見つけて無事に帰りましょう――なんて、聞いただけでも反吐が出る」


今「何や花宮、怪物が怖ぁなったんか?」


花「ふはっ!柄にもなく安い挑発しないで下さいよ」


実「あら、まこっちゃんたら可愛い所もあるのね。怖いものが苦手なんて…」

葉「えーー、花宮ってオバケ駄目なのー!? 意外〜!!」


花「ふざけんな!てめぇらまで便乗してくんじゃねーよっ!」

実渕は指を自分の唇に添え、上品にくすっと笑ってみせた。
葉山に至っては本気で花宮がビビっているのだと思い込んでいる。




原「てか、俺は探索行ってもいいけどー?何か面白そーだし」

古「俺も別に構わない」

瀬「どっちでもいい」

山「俺も…」


花「お前ら……っ」

どうやら花宮を除くメンバーは乗り気のようで、花宮は渋々探索メンバーに加わる。


こうして再び別チームによる探索が始まり、その中のある学校のとある人物は、中庭にて消えた【視えない男】もとい鳴海 恭介の存在を垣間見る事となった。

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