紫紺の楔

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――…続いて、各府県の強豪高校バスケ部員が、集団で行方不明になるというニュースです。


本日未明、各府県の警察庁に、「子供が学校から戻らない」という声が多数報告されました。

行方がわからなくなっているのは、いずれも各大会で名が記されている強豪高校のバスケ部員の模様。

捜査に参加した警察官の話によりますと、生徒らの私物は部室に残されており、また各府県とも同様の痕跡があることから、同一犯による犯行ではないかと……










『双葉、何見てんだよ』


「ん、各府県のバスケ部員が一夜の間に一度に行方不明になったっていうヤツ」

双葉と呼ばれた少年は訊ねてきた少年、鳴海恭介にも見えるよう、自身のケータイを少し持ち上げる。



「一度にって、かなり変じゃね?神奈川はともかく、京都や秋田のガッコーでも起こったんだろ?」

「だよねー。犯人がいっぱい居たとしてもだよ?一度に体の大きいバスケ部員を拐うなんて無理じゃない?」

『おいマッキー、菓子食いながら覗き込むな!肩にカスがこぼれる!』

鳴海が双葉から受け取ったケータイのワンセグを見ていると、左右から立花と志波が覗き込んできた。
志波にいたっては、ポリポリと菓子を頬張りながら画面を覗き込んでおり、鳴海の制服の肩口に容赦なしに食べこぼしが落ちている。




『けど、“強豪校のバスケ部”って絞られた範囲ってのも気になるよな…』


「何の話?」


「大澤じゃん。あれだよ、今朝の速報からやってる、バスケ部員集団行方不明事件」


「略して“バッシュ事件”」


「…もうどこの放送局でも、そのニュースを取り上げてるよな。って、マッキー。それじゃ別の事件みたいだろ」


立花がケータイを指差し、事件の事を伝える。志波は名前が長かった事から、略語を呟いた。
大澤はそんな志波に苦笑いを浮かべ、やんわりと諭した。




「……にしても強豪校のバスケ部か…。確かアイツも強豪校に行ってるよな?」

「……可能性はあるよね」

普段は騒がしい事が多い立花と志波だが、この事件に関しては真剣に考えているのか、普段の軽率な言動はなりを潜めていた。

カチっと、彼らしか居ない静かな教室で、時計の分針が動く音がやけに大きく聞こえる。

時刻は16時45分を示し、校内に帰宅を促す放送が流れた。




『……帰るか』

放送を聞き終え、鳴海が立ち上がると、それが合図だったかのように、4人も自分のカバンを肩に掛けた。








――――---……‥




「じゃーなー」


『おーまたなー』

3人とは交差点で別れ、鳴海と大澤も後にそれぞれの帰路に向かった。




鳴海は歩きながら、ふと自身のケータイを取り出し操作した。




《――引き続き、各府県の強豪高校バスケ部員が、集団で行方不明になるという……―》


大澤が言っていたように、どの放送局を見てみても例の事件が取り上げられ、報道されている。



ニュースに気を取られていると、普段とは違う道に入ってしまった事に気付く。


『あ、やっべ……――ッ!?』

指が操作を誤り、カメラモードにしてしまう。
画面を戻そうと、液晶を見て鳴海は息を呑んだ。



『ぇ……』
視線を前にやるが何も無い。
しかしもう一度、カメラモードになった画面を見ると、居るのだ。



『白狐……?』

鳴海の立つ位置から約10mほど進んだ電柱の下、まるでそこの空間だけ別次元のような雰囲気があった。

そこに小さな白狐が横たわっている。しかし異様な事に、電灯が放つ強い電光を一切受けていない。
現に狐の下に、あるはずのソレが無かった。

あれだけ強い光を浴びているにも関わらず、狐には“影”が出来ていないのだ。



鳴海はもう一度カメラから視線を外し、肉眼でそこを視てみる。すると、今度は肉眼でもその姿が確認できた。

恐る恐る近づいて様子を見てみる。
すると、その小さな体の至るところに無数の傷が見受けられた。


鳴海は日が落ちて、更に冷えきっている地面に片膝をつく。
そっと、狐に手を伸ばし触れてみる。

すると、存外温かな体に触れる事ができた。

カバンから体育の為に持ち合わせていたタオルを取り出す。
追記だが未使用のものだ。

それを使い、患部に触れないよう注意しつつ、狐の体を包み込む。


狐を抱え、鳴海は考える。


(動物病院……は無理だよな)


先程、カメラ越しでなければ視ることが出来なかった事から、鳴海は仮説を立てる。

白い狐など、とある生物学上で言われているアルビノ(白化個体)以外にそう存在しない。
その上肉眼に映らないと言うなら、それは霊的なものだろう。

しかし霊の類いなら、何故この狐に触れ、体温を感じることが出来るのだろう。


考えながら来た道を戻って居ると、急に行き止まりに行き着く。いや、正しくは行き止まりではないが……




『神社か…』

この時、彼の頭には「こんな所に神社なんてなかったはずだ」と言う考えはなかった。

もしかすると、この時すでに何らかの術中に嵌まっていたのかもしれない。


鳴海は何の迷いもなく、神社の鳥居をくぐった。
そして参道の脇に設置された手水舎に入る。
鳴海は柄杓を取ると、自分の制服が濡れるのも構わず清水を抱えた白狐にかけた。


もしこの奇行を見ていた人が居たなら、間違いなくその人物はギョッとして目を見張る事だろう。

なんせ男子高校生が、自らの制服に躊躇いなく水をかけたのだから。





『―――ぇ…』

途端に鳴海の瞳が光を持った。
緻密に説明するならば、神社を見つけた瞬間から、鳴海の瞳は光を失っていた。

第三者視点から言うなら、神社に入って行く彼は、何か見えない力に従っているようだった。



『俺何やって…。ここは神社…の手水舎?しかも制服濡れて…』







――アリガトウ、助カッタヨ


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