黒バス長編
□04
1ページ/1ページ
「おーい、鳴海ぃー。お客さんだぞー」
『おー、了解』
志波「あぁ!また女の子から呼び出されてる〜!何々、愛の告白っ!?」
教室の入口に居た男子生徒に名指しされ、鳴海はそちらへと足を向ける。
志波「あいたッ!」
『バァカ、愛の告白なんざされた覚えねーわ。次移動だろ、先行っといてくれ』
手加減を知らない志波のタックルに近い抱擁に仰け反り、鳴海は彼の頭頂目掛けて強力な拳骨を入れた。
志波「ぉ…ぉ…ぉぉ」
志波は頭部を押さえ、制服が汚れるのも気にせず床を転げ回っていた。
――――---……‥
「ホンッットに、ありがとう鳴海くん!おかげで、あのバカに騙されずに済んだよ!」
『いや、俺は情報通のダチに聞いた話を言っただけだしな。……まぁ、ちゃんと別れられて良かったな』
「うん、メッチャ助かったよ!あ、これ。今日の調理実習で作ったのー。せめてものお礼、良かったら食べて、食べて!」
『おー、サンキュー』
女子生徒はスキップするように軽やかな足取りで自身の教室へと帰っていった。
志波「ナルぅ〜話終わった〜?」
『マッキー、先行ってろっつっただろ』
志波「あ〜、そんな事言っていいのかなぁ?僕が持ってるこの二人分の教科書は何なんでしょーか!」
『じゃ、そのままずっと持っとけよ』
志波「うわぁぁん!!ナルがイジメるよぉぉ〜!」
志波は悲鳴を上げると、たまたま体育で通り掛かった大澤に抱き着いた。
大澤「うわぁあ!何ぃッッ!?」
双葉「ナルが、マッキーを虐めた…?………いつもでしょ」
志波「うわぁぁん!ここには僕の味方がいないの〜!?」
状況を飲み込めないものの、子供をあやすように頭を撫でてやる大澤と、いつものように感情の読み取りにくい声色で突き放す双葉。
そんな彼らの光景は授業開始を告げるチャイムによって、慌ただしく終わりを迎えた。
『ったく、あのハゲじじぃ…執拗な説教かましやがって!』
志波「ホントあり得ないよ〜。今日の授業やたら僕らを当てて来て…。問題に出てたタコを、あの寂しい頭にへばり付けてやりたいよ〜っ!」
肌寒い冬にしては、珍しく暖かな昼下りの屋上にて、鳴海と志波は先程遅刻してしまった授業について愚痴を溢していた。
鳴海は飲んでいるジュースのストローを齧り、志波に至ってはモッサモサと暴食を始めている。
立花「おーす、遅れたー。って荒れてんなーオメェら」
大澤「おい恭介、ストロー噛むなんて行儀悪いぞ」
双葉「……二人とも、助けて。この二人の愚痴うるさい…」
抑揚も無く、全く困っているようには聞こえない声色で、双葉は大澤達に助けを求めた。
立花「アレだろ、生物の林田だろー?名前が“はやし”だけど一切の毛根が生えてない“ハゲし田”」
志波「そーそー!あのタコ頭!!」
双葉「………助けを求める相手間違えた」
『立花とマッキーは、いつもこんなだろ』
大澤「賑やかなのは中学からだからね」
『中学の頃は、うるさい奴がもう一人居たけどな』
双葉「ん、ごちそーさま」
購買で買ってきたパンやおにぎりを広げ、大澤と立花も加わった集団。
その中で一足早く昼食を終えた双葉に、鳴海は思い出したようにブレザーに手を入れた。
『双葉、コレこの前の女子から“お礼”って言って受け取った。よかったらやるよ』
双葉は鳴海から手渡された小振りの袋の口を開ける。志波も興味津々に中を覗き込んでいる。
立花「あー、今日のオレんとこ調理実習があったんだよ」
大澤「へー何だったの?」
立花「クッキー作った」
志波「うーん…、不味くはないけどもっとお砂糖が欲しいかな〜?」
双葉「……モサモサする。粉っぽい…」
志波「口の中の水分持ってかれる感じ?」
双葉「うん」
『言いたい放題か』
立花「そもそもウチの女子、あんまし料理上手くねーし…」
大澤「まぁ正直…、マネージャーの差し入れもあまり美味しくはなかったよ…」
クッキーを頬張りながら、味について言い合う二人に、鳴海達は呆れつつも同意の意思を持っていた。
『…んじゃ、双葉』
双葉「……(ゴクッン)」
鳴海の雰囲気が真剣なものに変わり、双葉はクッキーを嚥下し、鳴海に視線を寄越した。
『昨晩伝えた内容は、粗方まとまっているか?』
双葉「ん、取り合えずはね」
『じゃ、情報頼むわ』
双葉は指に着いたクッキーのカスを舐めとると、ケータイを取り出し、巧みにキーを叩いていく。
鳴海達のやり取りを見ていた大澤、立花、志波は話していた自身の口を閉ざし、黙々と食事を進める。
しかし聴覚は鋭く働かせ、双葉の言葉を待つ。
双葉「ん、まずターゲット【K】はWC後、以前と比べ物にならない頻度で誠凛を訪れてる。蛇足だけど、それでも部活動に支障は来してない」
立花「セコっ!!!」
『…仕事の方はどうなってるんだ?』
双葉「行ってる。その日は止むを得ず、誠凛に行くのも諦めてるみたい」
『スケジュールも押さえてるのか?』
双葉「ん、ここ1週間分だけ」
大澤「凄いなぁ…」
双葉「でも、今回仕事が入っているのは明日だけ」
双葉がそう締め括ると、鳴海はどこかの悪童を思い出させる笑みを見せた。
『そんだけ分かれば、上出来だ』
彼らのただならぬ雰囲気は、予鈴によって一時終了を迎える。
再びこの光景が見られたのは、放課後の事だった。
_