黒バス長編
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『どうする?このまま追加注文でもしてここで喋るか?なんなら場所を変えてもいいし』
黒子「いえ、今日は新刊を買ってしまったので、もう持ち合わせがありません」
『そういや読書家だって言ってたな』
黒子「そんな事まで知ってるんですね。はい、先日待ちに待った作家の新作が出たので、それを購入しました」
語尾を少し強く言っていることから、珍しく黒子が興奮している事が窺える。
『じゃ、下手に引き止める訳にはいかねーか。黒子クンは早く帰って新刊読みたいだろうし…』
鳴海は暫しの思案の末、一枚のメモを黒子に差し出した。
黒子「これは…」
『俺のメアド。もし何か言いたい事とかあったら連絡してこいよ。相談ぐらいなら乗ってやるから』
黒子「いえ、僕は今日の事だけでも十分です。見ず知らずの方なのに、あそこまで話してしまいました。…きっと、鳴海さんが聞き上手だからでしょうね」
『なぁ、黒子クン。最後に1つ良いか?』
黒子「はい、どうぞ」
『少し…、ほんの1日だけでも、キセキの“キ”もない、静かに読書に耽られる日があったらなぁ…って思うか?』
黒子「…そうですね。ご指摘していただいたように、最近少しばかり疲労が貯まっています。気晴らしに、1日静かな時間があれば良いかも知れません」
『……そうか』
黒子「はい」
鳴海は傍に置いておいたマフラーや鞄を持ち、ゆったりとした動作で立ち上がった。
『長いこと引き止めて悪かった。機会があったら、また話そうぜ』
黒子「はい。鳴海さん、今日はありがとうございました」
黒子は律儀に会釈をし、鳴海を見送った。
鳴海はそんな黒子を見て、軽く口角を上げて微笑んだ。
大澤「用事はもう済んだのか?」
『なんで居んだよ、優一郎』
大澤「日課のランニングだよ。俺の家が近いの知ってるだろ?」
『……盗み見か、質悪いぜ?』
鳴海の憎まれ口には馴れたものとばかりに、大澤は人懐っこい笑顔で流す。
大澤「彼、あれだよね?誠凛高校の黒子テツヤくん」
『おう』
大澤「ずっと恭介、心配してたもんな…ぃだ!」
『余計な事言うな』
大澤「乱暴だなぁ…蹴ることないのに」
『減らず口やめねーと、晩飯やんねーぞ』
大澤「ごめんごめん」
鳴海はもう一度大澤の足めがけて蹴り上げるが、今度は綺麗に避けられた。
それが気に食わなかったのか、鳴海は彼の足を思いっ切り踏んづけた。
――――---……‥
『……誰かの“犠牲”無しでは前に進めない世界なんて…ふざけてる』
ランニングついでに鳴海の家に寄った大澤にご飯を馳走すると、鳴海は唐突に告げた。
大澤「え、半年前に買ったRPG、まだクリアしてないの?」
鳴海の不可解な言葉に首を傾げることなく、大澤は驚いたとばかりに目を見開く。
『たった1ヶ月で…親友の死を受け入れられる訳ないだろ…』
大澤「俺もうすぐ3周目に入りそうなんだけど……」
苦虫を噛み潰したような表情で、さもそのゲームの登場人物かのように鳴海は奥歯を噛み締め、親友キャラの死を悔やんでいた。
それに対して大澤は苦笑いを浮かべ、頬を軽く掻く。
大澤「ホント、恭介って……」
大澤が呆れた声を溢すと同時に、テーブルに無造作に置かれたケータイが着信を告げる。
『なんだ?迷惑メールか…?』
知り合いに割り振った、いずれの着信音にも当て嵌まらないそれに、鳴海は目を眇め、着信履歴に目を通した。
From:xxxx.965@kurobas.jp
件名:黒子です
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今日は、本当にありがとうございました。
お話を聞いて頂けて、とても助かりました。
鳴海さんのおっしゃった通り、知り合いじゃない人だからお話しできる事もあるんですね。
みんなと違った、第三者の方の意見が聞けて、新鮮でした。
後日、よろしければお礼をさせて下さい。
それでは、おやすみなさい
『――律儀だなぁ黒子クン』
大澤「あ、さっきのお礼とか?」
『おう、ご名答』
大澤「あれだろ、“鳴海さんは話しやすい”とか言われたんだろ?」
『よく知ってやがる』
大澤「事実だからね」
To:黒子クン
件名:別に気にすんな
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俺も結構楽しかったぜ?
だから礼ならいいよ。
じゃ、おやすみ
カチカチと簡潔な文を打ち込み、鳴海は送信ボタンをクリックする。
送信画面を見ながら、鳴海は楽しげに口角を緩めた。
大澤「じゃ、俺も帰るな」
『おーう、また明日なー』
どこか幸せそうに笑う鳴海に、大澤も笑顔を浮かべ、鳴海宅を出て行った。
『……さて、まずは誰を標的(ターゲット)にすっかなぁ……』
鳴海はアドレス帳を眺め、「双葉」と書かれた番号をクリックした。
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