黒バス長編

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晴れた空から降り注ぐ雨は「天気雨」又は「狐の嫁入り」と言われている。


じゃあ、空色から零れた滴は、なんて呼ぶんだ……?














カシャ…ッ



「あ、ナルぅ!また僕の変な写真撮っただろー!」


『あ、ヤベ、ブレた』


「ちょっ!僕の話聞いてるー!?何のショットを撮ったのさ!」



『立花、見てみ』


「ふぉほぉぉッ!何このスーパーミラクル的瞬間!!」


『ブレてっけどな』

鳴海は椅子を反対にして座っていた「立花」こと、立花 徹に先程撮った写真を見せた。



立花「ブフぉ!!マッキーの決定的ケチャップ芸ッッッ!!」


志波「なに撮ってんのさぁぁあっ!!!」


立花が腹を抱えて笑い出すと、「マッキー」こと志波 雅樹は写真をケチャップまみれの体で奪取する。


志波「わっははは!ヤバイ!これ凄いよ!」




「おーい、用事済んだしそろそろ帰ろ……ってマッキー凄いことになってる!?」


「ん、フランクフルトにケチャップ掛けようとして、失敗」


日誌を職員室まで提出しに行っていた大澤が戻ってくると、ケータイを弄りながら双葉が簡潔に説明してやる。


大澤「えぇ…と、はいコレ使って」

大澤はズボンのポケットに手を突っ込み、ティッシュを渡してやる。



『じゃ、それ拭いたら帰るぞ』














志波「もぉ〜!なんでケチャップとマスタードって一緒になってるんだろう!」

双葉「……その情報は知らない」

大澤「ケチャップのシミは中性洗剤を使って、後は天日干しすると良いぞ」

立花「オカンかッ」



先程のケチャップ散布事件について語る一団から3歩後ろを歩く鳴海は、愛用のカメラのメモリを見ていた。


落下した衝撃で撮れた事もあり、ピントがズレている上に、ほぼ沸き上がる観客達しか写っていない。
しかしその観客達の間隙を見ると、微かに水色の少年が写っている。

それはあまりにも見づらいが、少年の表情は哀しみの色を写していた。



『………』

無意識に身体を強張らせていたようで、張り詰めていた息を吐き出した。

普段の帰宅路と変わらず、マジバの前を通った。
その時、鳴海の視界の端に淡いベビーブルーが映り込んだ。

慌ててマジバの店内に目を向ける。
仕事終わりのサラリーマンや制服を着崩した学生など、賑わいを見せる店内。その賑わいから切り離されたかのように、水色の少年は一人窓際の席に座っていた。













大澤「ん…?あれ、恭介は?」

大澤は先程から一言も発していない鳴海を心配し後方を振り返るが、そこにはすでに鳴海は居なかった。






――――----……‥






『相席、いいか?』


「……………え?…ぁ、はい、いいですよ」


唐突に相席を求められ、少年はその大きな瞳を大きく見開いた。
鳴海は許可されると同時に席に着き、首に巻いていたマフラーを外し傍らに置く。



『ごめんな、黒子クン。見知らぬ野郎にいきなり声掛けられて、びっくりしただろ』


黒子「…僕のこと、ご存知なんですか?」


『ああ、誠凛高校1年、黒子テツヤ。WC優勝校で、その上あの「キセキの世代」から一目置かれており、自身の影の薄さと掛け合わせたプレイスタイルから、【幻の6人目】とも呼ばれている』


黒子「……一目…置かれている」

『他にも色々プライベートな事も知ってるっちゃ知ってる。まぁ、黒子クンが今飲んでるそのシェイクが好物とか…な』


黒子「………」

鳴海の発する言葉に、流石の黒子も訝しげな表情を浮かべる。


『っあ、悪い!別にストーカーとか、そう言う類いの輩じゃねーから。……ただまぁ、俺の知り合いに情報収集が趣味の奴が居てさ、そいつから聞いて知ってるんだ』

ごめんな…、と苦笑いを浮かべて謝ってくる鳴海に、黒子は「…大丈夫です」と答える。



黒子「少し、その情報に不備があるような気がしたので……。改めまして、黒子テツヤです」


『不備……?珍しいな、あいつの情報収集は中々だと思ってたけど、間違いがあるのか…』

鳴海はポテトを口に運ぶと、黒子を見る。
まるで景色に溶け込むような存在感の彼を、どうして自分は気付くことが出来たのだろうか。

知り合い、もとい双葉から聞いている誠凛の「伊月俊」や秀徳の「高尾和成」が持つ特異な目を持たない自分が何故…?


思案に耽っていると、視線を感じた。
意識を向けると、「あの…」と控えめに声を掛けられる。


黒子「すみません、失礼ですが、あなたは?」


『あ、あー、別に名前を言うようなモンでもねーけど、一方的に知られてるって言うのもアレだよな。 俺は鳴海恭介だ。因みに、バスケとかとは無縁のごく普通の高3だ』


黒子「鳴海さん、情報収集が趣味な知り合いと言いますと…もしかして桃井さん…ですか?」


『いや、その子の事も知ってるけど、その子とは一度も会ったことない』


黒子「……そうですか」

黒子はホッと小さく息を吐く。
その行動に疑問を抱き、鳴海は片眉を上げる。



『黒子クン、なんか疲れてる?』


黒子「え…」


『いや、違うなら良いんだけどよ…。なんとなく、疲れてるように見えるからさ』


黒子「………そんなに、わかりやすいですか?」


『悩み事があンなら、良ければ聞くぜ?』


黒子「いえ、会ったばかりの方に話すなんて失礼ですし…」


『会ったばかりの他人だから言える事もあると思うけどな』

どうだ?と人当たりが良さそうに促され、黒子は暫し口を閉ざした後、口をゆるゆると開いた。







黒子「では、聞いてもらって良いですか?」

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