黒バス長編

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「……すみません…けどもうどうしたらいいのか、わからないんです」









『(…あの子…泣いてね…?)』




「どうしたら……」




「ん、ナルぅ?どったの〜?」


『ぁ…いや……』


普段連んでる奴等との何気無い帰り道。
いつも通るストバスコートで、その子は人知れず涙を流していた。

ベビーブルーの柔らかそうな髪が乱れるのも気にせずゴールの柱に頭を預け、同じく空色をしているであろう双眼から、静かに雫を溢していた。




『あの…ちっちぇ子……』

堪らず指を差し、その少年の存在を示す。
しかし……



「え〜?どこどこ、どこの子?」

「誰も見えねーけど…」


『はぁ!?どこって…ほらすぐそこに……』


「…恭介が嘘吐いてるなんて思わないけど、何が見えてるの?」


『お、お前まで!』


再びストバスコートに目をやるが、既に少年は居なかった。




『(ま、まさかマジで幽霊か…!!?)』

そんな不安を覚えた、中学最後の9月。






その不安が杞憂だったのを知ったのは、高校に上がってからの事だ。




「たぶんそれ、帝光の幻の6人目(シックスマン)」


『――それマジで!えっと……フタバ君!!?』


「ん、帝光の制服着て、バスケやってて影薄いなら、間違いない」


「あれ、でも帝光?帝光ってあのバスケがメチャクチャ強い所だよね?」


「ん、昨年の全中で優勝してる。つまり【キセキの世代】の6人目だよ」



『へー…』



そしてこの年の全中、帝光中は再び優勝校の座を手にしたらしい。



「……よくない傾向」

『は?全中2連覇がか?』


「ん、ちょっと違う。キセキが世間でヒーロー扱いされてる事。だからこれからもずっと、彼らは試合に出て勝ち続ける」


『?? 勝ち続ける事は良いことじゃねーの?』


「あの学校の…理事長の理念は【勝つこと】いずれそれが、歯車を壊してく……」


『……うん?』

その時、双葉の言っている事が解らなかった。



それからまた月日が流れ、俺は高2へ上がった。



『(一人で帰んの久し振りだな)』

この日俺は、珍しく一人で帰っていた。帰宅してからの事を考えていると、例のストバスコートの前に差し掛かる。


何となくコートに視線を向けると、……あの少年がいた。






「……心配してくれて、ありがとうございます」

電話でもしていたのか、少年はケータイを仕舞う。


『(へー…身長、ちょっと伸びたんだな)』

ま、当然だな。と当たり前の事を考えていた俺は、そのまま歩みを再開した。
横目で少年を見て、思わず足が止まった。




「――……最低、です」

前髪で翳りが出来てて、実際の所はわからなかったが、その姿はまるで……



―――泣いてるように見えた。


しかし、あの日に見掛けた彼の姿とは雰囲気が違う。
前回は悔しそうに己の力不足を嘆いているようだった。


でも今回は、何かに押し潰されかけているようだった。


『(なんで…あんなに苦しそうなんだよ…)』


少年は赤髪の少年と入れ替わるように、コートを去っていった。


『っ、なぁ――』

咄嗟に喉から出かかった言葉を飲み込み、俺はポケットからケータイを取り出し、乱暴にキーを叩いた。




『双葉。全中って、いつ?』




――――---……‥

――……‥




ワァァァァアアア!!!


双葉から聞いた全中に来れたのは、決勝戦の終盤だった。

点は111:9といった絶望的差。帝光中の圧勝だったが、相手校の心はギリギリ折れていない。


『(あの少年は……?)』


コートやベンチを見るが、少年の姿がない。
しかし一席の空きがある。
接触の多いスポーツだから、怪我でもしたのだろうか。


試合終了の合図が会場一杯に響き渡る。その時、あの少年が飛び込んできた。その頭には痛々しく包帯が巻かれている。


そんなことよりだ……。





「ぅっ…ぁ…あ"っ……あ"あ"ぁあ"あ"……」


今まで見掛けた彼は、声を出して泣いては居なかった。
あんなすぐにでも壊れそうで、脆く佇んでは居なかった。


空色から…大粒の雨が、会場に降り注いだ。



『く、ろ……』


指先に力が入らず、愛用のカメラが音を立てて床に落ちた。





……カシャ…ッ











勝利を手にして、あんなに苦しく泣く少年を……













――お前らは見えているのか?
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