マギ長編2
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アリババ「アラジン!」
出逢いはアリババが運転する馬車だった。
優しい彼は、自分の夢を笑われても怒らず、人の命を冒涜された時、その憤怒の片鱗を見せた。
そして彼はモルジアナのような人々も、自身が手に入れた財や権力によって解放して見せた。
自分を「卑怯者」と卑下し、己の無力を嘆く彼が、アラジンは「勇気ある人」と称し、大好きだった。
だから彼に会う為に、この長い旅を続けてきた。続けられた。
――楽しみに…してたんだけどなぁ…
自然と、双眼に水の膜が張る。
『――泣いてたのか?』
アラジン「っ!?」
凛とした、懐かしい声がした。
『久し振りだな、…アラジン』
アラジンは息を呑んだ。
窓から姿を現したのは、半年前に別れた、もう一人の友人キリフォードだった。
アリババ「よ…よぉ…、久し振り…アラジン」
その腕の中には、大好きな友達も居る。
*****
アリババ「は、半年ぶりだなぁ!お前ちょっとカンジ変わったんじゃねーか?」
アラジン「あ、う、うん!そう言うアリババくんも……」
……元気か? 大丈夫だよ。
先程から行われている、ぎこちない会話。
そんなやり取りに、彼女は少しずつ苛立ちを募らせていく。
彼女、モルジアナからすれば、早く事の真意を伺いたい所だろう。
アラジン「えっと……」
アリババ「………」
『なぁ、アラジン。お前はこの半年、何をしてたんだ?』
壁に背を預けて、キリフォードが尋ねる。要するに助け船を出したのだ。
アリババ「そ、そうだよ。【第7迷宮】から出たはいいけど、お前が全然帰って来ないからビックリしたぜ…!」
アラジン「フフフ…、聞いたら驚くよ」
キリフォードの出した助け船はうまく二人を乗せたようだ。
何だよ、勿体振りやがって!っとアリババは先を急かし、アラジンは可愛らしくクスクス笑う。
アラジンは【第7迷宮】を出たあとの事を話した。
嬉しかった事、楽しかった事、悲しかった事……、
アラジン「それに…、キリくんの一族の事も、聞いたんだ……」
『そうか…バァさん、死んじまったのか…』
静かに聞いていたキリフォードは眉をハの字に下げ、哀愁に満ちた表情を浮かべた。
アラジン「……、そして僕は、この国で君達を捜す為に、【霧の団】を捕まえる事になったんだ」
アリババ「……」
アラジン「ねぇ、教えてよ。君達が…君が【霧の団】にいるワケを」
アリババは口を紡いだ。
その後、彼はポツポツと話し出した。
まずは最初に、カシムとの事を話した。
そして自身が王族である事、その経緯。
それからの事。そして…この半年間の事。
アリババの話を聞き終えた二人は、アリババの気持ちを汲んだ上で、励まし、協力を買って出てくれた。
刹那、アリババの表情の変化を読み取ったキリフォードは、口元を緩めた。
『な、言っただろ。…感情のまま、思った事を話せば、意外とスッキリするもんだってな』
アリババ「キリ…」
『……いい機会かも知れねーな』
ボソリと…。まるで呼吸をするように自然と溢した言葉に、三人が彼を見上げた。
『丁度、アリババの過去も知った所だしな。ついでに…俺がこの国に辿り着いてからの話を、聞いてみるか?』
アラジンとモルジアナの二人は顔を見合わし、ゆっくり頷いた。
アラジン「聞かせておくれよ。キリくんの、この国での君の事…」
『まず…、モルジアナにはもう話してあるが、俺は……黄牙の村を出てから間もなくして、【奴隷】になったんだ…――』
*****
痛い…、痛いッ…!
ズキズキと今までに味わった事のない激痛がそこから伝わってくる。
感情のまま、目的も何も無しに走り続ける。
時々、枷がジャラジャラと耳障りの音を立てる事で、自分が先程まで冷たく悍(オゾ)ましい檻の中の【奴隷】だった事を思い知らされる。
いくつもの街を通った。
その時、町民達は“魔狼”になった少年の姿を捉えることは出来ず、一陣の激しい風が吹いた。としか思っていないだろう。
『は…はぁ…!』
鋭く痛む箇所、右目を失った事で、視界がかなり悪い。
先程から何度も壁や樹木、人にぶつかっている。
不注意で右目に当ててしまった時には、人が聞けば耳を塞ぎたくなるような悲鳴を上げていた。
しかし、いくつも大きな街を通ったにも関わらず、キリフォードは医者を訪ねなかった。
それは、短いながらも経験したこの3ヶ月間の奴隷生活の所為だった。
すれ違い様、見かける人々が、彼は怖くて仕方なかった。
そして自身のみすぼらしい服装では、門前払いが目に見えていた。
どれほど走っただろうか。
周りは荒れ果てており、自分と差異が無い服装をした者達が多くいる。
中には殴り合ったりしている集団も見受けられる。
キリフォードは肩で息をしながら、再び足を前に踏み出した。
『―――……ぅ』
ドサ…っ
彼は人気の少ない裏路地付近で力なく倒れ込んだ。
その拍子に“魔狼”の姿が解け、人の姿に戻ってしまう。
――体に、力が…入ら…ねぇ…
奴隷の身であった彼は、碌に満足な食事をしていない。
その上に遠くの街からここまで休まず走ってきたのだ。
……もはや身体の限界である。
――俺…死ぬのか…?
人知れずに、見知らぬ土地で朽ちて逝くのだろうか?
――せっかく…シュウに……、生かしてもらったのに……俺は、こんな…所で…っ
視界が滲む。
頬に久し振りに温かな感触。
キリフォードは涙を流した。
―――ダイジョーブか……?
『……?』
――シュ…ウっ…?
美しい琥珀色が心配そうに彼の目を覗き込んだ。
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