マギ長編2

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見渡す限りに人、ひと、ヒト。


霧の団のアジトを埋め尽くすのは、ここ一ヶ月で更に人数が増えた団員達。

そんな団員らが囲むように座る中心には、三人の元盗賊団が居た。



そんな三人を積み上げられた瓦礫の頂上から鋭く見下ろすのは、霧の団頭領アリババ。



アリババ「俺達は“義賊”だ。スラムの為に国軍と戦っている。……盗賊気分で汚ねぇ盗みをするんじゃねぇ。スラムの者達を一切傷つけるな。

――もし、これを破ったら…」


アリババは更に目を細くし、三人を見据える。
アジトの空気も突き刺すような冷たさになる。



アリババ「命で…償ってもらう。それでいいよな」


けして大きくない彼の言葉が、アジトに静かに響き渡る。

この言葉は、目の前の三人だけを表しているのではなく、今、この空間に居合わせている全ての団員にも言っている事だ。




アリババ「もういいぞ、さっさと行け」



S「ハイッお頭!!」

声を張り上げて敬礼するSナンド。
去り際に、兄弟で何やら企てているようだが、か細い彼らの声は団員達の耳に入ることはない。




しかし、この男は違う。






『おい、あんたら』


団員達の部屋へと続く廊下の角で、キリフォードは三人を呼び止める。



『ちょっと時間、いいか』


M「……あなたは?」


『霧の団の一人だ。一応な…』


S「ハイ!どう言ったご用でしょう旦那ッ!」

Sナンドは猫撫で声を出し、手は胡麻をする。



『お前達に言っておく。さっき主…いや、お頭が言ってた事に従う事は絶対。……わかるな?』


S「ハイッ勿論です!スラムの方々は一切傷つけませんッ!」


『…それとこれも忘れるな。

――霧の団員…特に【主】に手を出したら容赦しねぇ…』


ス…ッと瞳が赤く変わり、三人を見下ろす。

三人はさっきの比でない程の恐怖をその身に感じる。

キリフォードは三人の中でもっとも権力のある、長男Sナンドを注視する。


『少しでもあの人を傷つけてみろ。そん時は……』


彼は口角をつり上げると、その両端から鋭い犬歯を覗かせ、双眼を不気味にギラつかせる。







『テメェらのその汚ねぇ喉、咬み千切ってやるよ』



「「「ヒィッ!!!」」」



三人は互いに肩を寄せ、震え上がった。

キリフォードは口元に弧を描き、畏怖する彼らの横を通り抜ける。


震えながらも三人は彼の後ろ姿を見送る。

そんな彼らに、キリフォードは地を這うような低い声を残していく。




『俺は“殺す”なんて生温い事で終わらせねぇ。喉を咬み千切って、呼吸出来ずに苦しみ、ジワジワと死に蝕まれていく恐怖を味わわせてから殺してやるよ……』


振り向かずに去っていく彼の背中に、三人は何度も頷いた。











『――……ん?』
薄暗い廊下を歩いていると、ふと普段では感じない、懐かしい気配を感じた。


そちらに向かって見ると、キリフォードとその人物は互いに目を丸くした。





*****





ある入り組んだ通路を抜けた先にある、他の部屋と比べて少しばかり大きな部屋。
そこはお頭である、アリババの自室。

そこでアリババは悲しげな表情で煙草を吹かしていた。
しかし、すぐに苦しげに咳き込んでしまう。

幾度と咳をしていると、背中を撫でられる感触。


アリババ「キリ……」


『……大丈夫か?』


アリババ「ああ…」


キリフォードは2、3回背中を摩ると、アリババの手に握られた火の着いたままの煙草を取り、自身の口へと運んだ。


煙をくゆらし、肺に煙草を循環させ、煙を吐く様は、正直男の目から見てもカッコ良かった。



『…あんたに、客が来てるんだ』

キリフォードは煙草を吹かしながら、唐突にそう告げた。


アリババ「客…?」


はて、こんな霧の団のアジトにまともな客が来るのだろうか?

アリババは首を傾げた。



アリババ「客って……」

?「私です」


アリババ「………ぇ」

やって来た客、もといモルジアナの姿を瞳に捉えたアリババは、絶句。そして突然背後に現れた事に、反射的に悲鳴を上げようとした。

しかしそれを素早く阻止したモルジアナによって未遂に終った。


腹を殴られ、床にうずくまるアリババに、キリフォードが跪く。


アリババ「キリ…、これはどういう……」


『悪いなアリババ。俺はあんたに道を示すことは出来ねぇ。……だから、あんたをアラジンに引き合わす…!』


言うのが早いか、キリフォードはアリババを姫抱きにし、窓に片足をかける。


『言ったろ?言いたい事は言えばいい。感情のまま、思った事を言った方がスッキリするかもしれねーぜ』



アリババ「だからって…!」


『今更グダグダ言ったって遅ぇよ。……もう着くし』


アリババ「え、ええぇぇぇぇ!!?」


目前に、開かれた窓の前でうずくまる少年が見えた。

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