マギ長編2
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「盗賊だ!!いたぞ、かかれ!!」
次第に援軍が集まり始めた。
カシムがアリババに促すと、アリババは金属器に命じる。
アリババ「厳格と礼節の精霊よ、汝と汝の眷属に命ず、我が魔力を糧として、我が意志に大いなる力を与えよ……」
――出でよアモン…!!
刹那、アリババの剣から猛火が立ち上る。
「怯むなぁ、捕らえろッ!!!【怪傑アリババ】だ!!!」
アリババ「…行くぞ、アモン!」
アリババが地面を切りつける。
すると、たちまち斬撃は炎を纏い、猛々しい炎の壁が出来上がった。
国軍達は怯み、中には後を追おうと試みる者も居たが、猛火に巻かれ、断念せざるを得ない。
キリフォードは団員が逃げ切れた頃を見計らい、ジャーファルの首から手を離す。
ジャ「―――っ!」
素早く立ち上がり、ジャーファルは刃を放った。しかしそれはキリフォードに届くことはなく、地面に突き刺さった。
キリフォードは手を離すと、目にも止まらぬ速さで駆けて行った。
ジャ「く……、私とした事が…!」
ジャーファルは自身の未熟さを悔やみ、名残から咳を1つ。
モルジアナ「大丈夫ですか…?」
ジャ「ええ…」
ジャーファルが苦笑いを浮かべると、モルジアナが怪訝に眉を寄せた。
モルジアナ「……どこか、お怪我でもされていたのですか?」
ジャ「…はい?」
モルジアナ「首に……」
モルジアナがジャーファルの首を窺う。
首に何か…?と先の言葉を促すと、モルジアナは呟いた。
モルジアナ「首に…“跡”が残っていないので…」
“跡”がない……!?
ジャーファルは息を呑んだ。
全身の自由を奪う程の力で組み敷かれたにも関わらず、首にはいっさいの跡が残っていない…?
モルジアナはそんな詰まらない嘘を吐くような娘ではない。つまり事実、“跡”がないのだろう。
手加減をされていた事に気づき、ジャーファルは更に自分の不甲斐無さに奥歯を噛み締めた。
猛々しく燃え盛っていた炎が収まる頃には夜が明け、三人はシンドバッドとマスルールと合流した。
*****
「おお…霧の団だ」
「霧の団だ…!」
「おーい!今日も霧の団が金持ちからお金を奪ってきてくれたぞぉ!」
「怪傑アリババだ!」
「アリババ達が来てくれた…!」
朝だというのに薄暗いスラム街では、霧の団員が盗品をバラ撒き、住民達から感謝の声を掛けられていた。
カシム「よぉアリババ。ずいぶんと浮かない面してんじゃねーか」
アリババ「…別に」
住民達の歓喜を右から左に受け流すように、アリババはスラムの路地へと姿を消した。
スラムの入り組んだ路地を歩いていく。その間にも、頭を過るのは半年ぶりにあった友人達。
あの時から何も変わっていない、アラジンの真っ直ぐで透き通った瞳を思い出すと、心に掛かったモヤが色を濃くしていく。
いつだって…自分は中途半端だ。
固く双眸を瞑り、拳を痛いぐらい握り締めた。
「――――……」
アリババ「!」
耳に、幽かな声が届いた。
その方向へ足を運んでみると、複数の男達が一人の女性の衣服を暴いていた。
スラムは日に日に荒れ、このように女性を襲っている光景も珍しくない。
女性は必死に助けを呼ぶ。
そんな彼女の姿を男達はにやにやと厭らしい笑みを浮かべて事に及ぼうとしている。
アリババ「おい、何して――」
アリババは止めに入ろうと身を乗り出した。同時に、男達の短い悲鳴が聞こえた。
『嫌がる女を組敷くなんざ、最低な野郎がする事だぞ。そんなに溜まってンなら、霧の団が今配ってる金でも何でもつぎ込んで娼婦を相手にするんだな…!』
漆黒の髪を靡かせ、キリフォードは男達に一発喰らわせた。
男達は気を失い、女性は礼を述べて去っていった。
アリババ「キリ……っ」
『っ、悪い…スラムの奴は傷付けるなって……言われてたな…』
アリババ「い、いや…今のは仕方ねぇ…よ」
アリババは笑みを浮かべた。
しかし誰が見ても、無理に笑っていることが解った。
『なぁ…、久し振りに…走ってみねぇか?』
アリババ「キリ…?」
『少しは、気分も晴れる…いや、紛れるかも知れねーし……』
な?
促され、アリババは間を開けてから頷いた。
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