マギ長編2

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翌日、霧の団アジトは賑わっていた。
今夜もまた、貴族の屋敷を狙うのだ。


その為の準備に追われる者、計画を最終チェックする者など。


その内でも、頭であるアリババを中心とした幹部達は後者だ。
綿密に今夜行う計画を話し合っている。

そんな彼らから少し離れた壁際にキリフォードは居た。

そこで、普段のアリババからは窺う事の無い顔を見詰め、キリフォードは複雑そうな表情を浮かべていた。







カシム「おい」


『………』


カシム「おいこらっ!」


『…………』



カシム「おいっ!聞いてんのか!」

『………………』



カシム「おいキリっっ!!」


『………んだようるせーな。今考え事してるってーのに』

不機嫌そうな声音で返事をすると、カシムは眉間にシワを寄せて言う。



カシム「なんだじゃねぇ…話聞いてたのかって訊いてんだ!」


『……俺はお前とアリババと一緒の“本隊”…だろ』



カシム「あ………、ああ」


『なんだよその顔。お前の話、ちゃんと聞いてたよ…』


カシム「そ……か…」

フッと皮肉に笑ってみせると、カシムはどこか嬉しそうな表情を見せた。
今度はキリフォードの方が怪訝な表情を浮かべた。



『なんで喜んでんだ…?』


カシム「う、るせー!!」

そう叫ぶとカシムは走り去って行った。



『……反抗期か…?いや昔からか…?』


キリフォードは珍しく眉をハの字に下げ、困ったように呟いた。













日が沈み、本格的に計画が動き出した。




ザイナブ「ほら、行くよあんたら」

ハッサン「グスグズすんじゃねーぞ」


ザイナブ、ハッサン率いる特攻隊は先に出陣して行く。
キリフォードはそれらを屋根の上で眺めていた。

しかし、心なしかどこかソワソワしており、戦闘でもないのに瞳も赤かった。



不意に、唾を飲み下すように喉が上下した。


『ぅ……ゥゥゥ…』

次第に、獣の呻き声のような声を漏らす。




カシム「――よぉ、ここに居たのか」


『グルゥゥゥ…、カシ…ム』


カシム「おー、見事に盛ってんなー」


カシムはキリフォードの様子を見て、夜空を見上げる。







カシム「今夜は満月だったみてぇだなぁ」

空には大きな満月が満ちており、霧深いこの街を爛々と照していた。



カシム「フッ、血が騒ぐのか?もう少しすれば、国王軍とご対面だ…そうすれば…」


『うる…せ。国の人間は殺すなって……主に言われて…る』



カシム「……“主”な…」




『時間になれば…すぐに向かうッ…。さっさと、どっか…行ってくれ……』


ギラギラと鋭い輝く視線にカシムは一瞬肩をビクつかせ、舌打ち混じりに屋根から姿を消した。










――ぁぁ…






――早く、













――この“渇き”を…









――満たしたい……っ








漆黒の魔物は満月を背負い、不気味に口元を歪めた。

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