マギ長編2
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カシム「――という訳だ、実行は明日の夜だ。準備を今日のうちに整えておけ。…で良いな、相棒?」
アリババ「ああ…」
カシムが解散を呼び掛けると、部下達は各々の部屋へと戻っていった。
『……終わったか?』
会議が終った頃を見計らい、キリフォードは姿を現した。
カシム「お前も一応団員だろーが。なんで一回も会議に出ねーんだよ」
『フン、一丁前に幹部気取りやがって。そういう意味で成長したお前を見るのも悪かねーなぁ』
にやにやと意地の悪い笑みを浮かべると、カシムは「なぁっ!!?」と目を見開き、咄嗟にキリフォードの胸ぐらを掴んだ。
カシム「〜〜いつまでもガキ扱いしてんじゃねーよっっ!!」
『18なんてまだまだガキだろーが。そもそも照れ隠しで人の胸ぐら掴むところがガキだっつーの』
ペチッとカシムの掌を叩くと、キリフォードは身を翻す。
『…ちょっと出掛けてくるぜ』
アリババ「……ああ、わかった」
アリババに一言告げ、キリフォードは出口へと向かった。
カシム「んだよ…」
彼のそんな後ろ姿を一瞥し、カシムは密かに口を尖らせていた。
*****
『旦那、ここがそのホテルで合ってるか?』
「おお、そうだそうだ、ここだよ!いやぁ君力持ちだし、足も速くて助かった。日が暮れるまでに着けたよ」
背中に背負っていた老貴族の男性を地面に降ろすと、荷物を手渡す。
「いやぁ本当に助かった。…これ、少ないがせめてものお礼だ」
そう言って老貴族の男性は、キリフォードに十分過ぎる金を持たせた。
『…じゃ、俺はここで』
キリフォードは金を懐に仕舞うと、再び国の入口近くまで戻った。
先程の男性同様、旅の人を中心に運び屋を引き受ける。
これを幾度も繰り返し、巾着いっぱいまで貯まると、今度は人気のない外れまでやって来た。
一軒の形ばかりの粗末な家の前に立ち止まると、声を掛けることもなく中へ。
『よぉ、母ちゃんの具合はどうだ?』
「昨日よりは楽になったって…」
幼い少年の傍らには、力なく横たわる母親の姿が。
不意に、どちらとなく腹の虫が音を出した。
『あとは腹ごしらえだけ…ってとこか』
ほっと息を吐くと、少年の前で身を屈め、その小さな手にいくらかの金を握らせた。
『それで当分は食っていけるだろ。母ちゃんや自分の好きなの買うといい』
すると少年は涙をこらえるように表情を歪め、何度も頭を下げた。
その家から出ると、次は市場まで走る。
両手に抱えるのがやっとなほどの食糧を持って再びスラムへ。
今度は見晴らしの良いところでそれらを布の上に降ろすと、辺りに聞こえるように叫ぶ。
『おーい!!!メシ食いはぐれてるヤツ、慌てなくて良いから、出て来いよー!』
いい終えると、辺りは静まり返る。
しかし次の瞬間、わらわらと人々が家から出てきた。
「メシだー!!」
「キリフォードさんが来てくれたぞー!!」
「久し振りのご飯だー!!」
「ありがてー!!」
『押さなくても、十分全員に行き渡るだけあっから、落ち着いてなぁ!』
住民達に食糧を渡しながら、キリフォードはポツリと溢す。
『ホント、堕ちちまったんだな……この国は…』
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