マギ長編2
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――君の鎖は、もう取れたはずだよ。モルジアナ……
誰――!?
盗賊の砦の中心部。
そこでは非情な光景が広げられていた。
砂漠ハイエナが群がる檻の中に、小さな少女ナージャが落とされ、少女を喰わんと襲い掛かっている。
檻の外で、モルジアナは必死に足枷を外そうと藻掻いていた。
強固な枷に絶望し掛けたその時、モルジアナの耳に声が届く。
モルジアナは涙を流し、その声に返す。
(あの頃と同じだよ…。逃げたくても、絶対、逃げられないんだ)
彼女の弱気な言葉に、声は優しく諭す。
君は昔とは違う。成長した、主人は死んだ、奴隷身分からも解放された。
成長した今の彼女には、そんな鎖も足枷も無いのと同じだと。
その言葉に1つ1つに、彼女は駆り立てられる。
―――なぁ、嬢ちゃん
不意に、脳裏にもう1つの光景が蘇った。彼らがバルバッドに旅立ってしまう前日、去り際に彼に呼び止められた時の記憶。
*****
モルジアナ「……なんですか?」
『さっき嬢ちゃんは、言ってたな。足首から枷が消えた時、息を呑むような気持ちを味わったって……』
モルジアナは無言で頷く。
『……嬢ちゃんは長い間鎖に繋がれていた。だから、ふとした瞬間、過去が蘇り、お前を苦しめる事がきっとある…』
彼は真剣な瞳から優しげな瞳に変える。
『けどな、嬢ちゃんは今、奴隷から【解放されて】ここに居る。
過去の恐怖から逃げるな…なんて言わねー。忘れろとも言わねー。ただ覚えとけ、お前は“ファナリス”だ。誰もお前達を捕らえる事なんて――…』
*****
モルジアナは地を高く跳んだ。
そして圧倒的な実力で、次々と猛獣達を蹴散らし、その中心に凛と立つ姿はその名に相応しい。
――誰もお前達を捕らえる事なんて出来やしねーんだからな。
お前達ファナリスは、【暗黒大陸の覇者、地上最強の戦闘民族】なんだからさ。
「おーい、誰かあいつ知らねーかぁ?」
「あいつって…あぁー、さっきまた出掛けていったよ。あいつに何か用があったのか?」
「いやさー、噂の砦の盗賊団が壊滅したって、教えてやりたかったんだけど…」
「そういやあいつ、すごく気にしてたな。なんでも一家を見送ったとかどうとか…」
「……ホント、お頭や幹部以外とは馴れ合わねーよなあいつ…」
?「キリ…」
『なんだよ、お前から話し掛けて来るなんて珍しいじゃねーか』
?「…別に、お前はいつもあいつにべったりだからな…」
『……甘えたがりな子供みてぇに言うんじゃねーよ』
スラムの一角の建物の上に、その姿はあった。
座り込んでいるキリフォードの背後に、長髪の男が背中合わせに座り込んだ。
『……甘えたがりはどっちだよ。ずいぶんと部下達の前と違うじゃねーか』
?「……うっせ」
拗ねたように、体重をかけてくる彼に、キリフォードはククッと声を押さえるように笑う。
『久し振りに、ケンカでもするか…?なぁ、カシム』
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