マギ長編2

□体温
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「はっ…くしゅ!!」


『大丈夫かよ、アリババ…』


もう翌日に差し掛かるであろう時刻、ようやく荷車の仕事を終えた二人が並んで帰宅する。

唐突にくしゃみをしたアリババを、キリフォードは心配そうに見遣る。




「うう……寒みぃぃ」

砂漠の温度は日中と夜とでは大きく違ってくる。

先程までジリジリと焼けるように暑かったが、日が落ちた現在は氷点下まで下がった。



フワリと、アリババの肩に温かな物が掛かった。

サラサラとして、現在で言う綿のような肌触りのそれは、いつも彼が肩に巻いている布だった。



『……気休め程度のモンだけど、少しは温かいだろ…』

苦笑いを浮かべ、部屋の奥へ進む彼の肩は吹きさらしになっている。



「お前は寒くないのか?」


『あんた程では無ぇよ』

形のよい唇に弧を描き、キリフォードは微笑んだ。


彼から受け取った布をそっと触れる。とても温かく、日だまりの匂いがする。

ふとアリババは閃いたとばかりにキリフォードに告げる。



「キリ、キリ! クイズだ!」


『クイズ?何だよいきなり…』



「おう、いくぞ? 地上には色んな生き物がいるけど、哺乳類の中でも一番体温が高いのは何だと思う?」


『…哺乳類?……猫か?』


「ブッブッ〜〜、ハズレだ!!答えは――」



答えを言う前に、アリババはキリフォードに向かって走った。





『うおお!!?』


突然アリババに突進され、キリフォードはバランスを崩し、尻餅をついた。



『いきなりどうしたんだよアリババ!!?』



「フッフッフ……。答えは“狼”なんだぜ!」


『はぁっ!!?』


ギュゥゥゥ…と抱き着くアリババに、意味がわからないと言いたげにキリフォードは眉を寄せた。





「てな訳だ!キリ、魔狼になってくれ!」


『…どんな訳だ。まぁ、良いけどよ』

言うのが早いか、キリフォードは人型から魔狼になり、床に横になる。

アリババの方にお腹を見せるように寝転がると、アリババは早速キリフォードの毛並みに体を預ける。




「うわ〜〜…温けぇ〜」

至極幸せそうな表情を浮かべるアリババに、判り難いがキリフォードも頬を緩める。



「キリも嬉しいのか〜?」


――…なんで判ったんだ?




「尻尾!」


自身のフサフサとした尻尾を見ると、なるほど、柄にもなくパタパタと揺れている。



「これ気持ちいいなぁ〜、クセになりそー…」

彼の滑らかな毛並みが頬を擽り、おまけにとても温かい。

気遣ってくれているのか、彼自信も体を出来る限り丸め、アリババを包むようにしてくれている。


彼の労るような視線も居心地が良く、次第に眠気がやってくる。

そんなアリババに気付いてか、キリフォードは彼に掛けていた肩布を銜えて広げ、掛け布団の代わりを作ってやる。




安らかな寝息が聞こえてくると、キリフォードも静かに瞼を下ろしていく。






翌朝起きれば、恐らくは体の節々が痛むだろうが、そんな事は大切な主の二の次だ。

安らかに眠る主に寄り添い、眠りの世界へと身を委ねた。















END
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