マギ長編2

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燃え盛る、かつて誇り高き魔狼の民が住んでいた村。


その中心部の広場に、いくつものマトリョーシカが転がっていた。







*****




-村外れの広原-




『はぁ……はぁ…』

歩くたび、ズキズキと負った傷から血液が溢れ出す。


『ぅ…っ』

一際大きく傷口が疼き、キリフォードはその場に膝から崩れた。


シュウ「ッ…」


『! シュウ、悪い!』

背負っていたシューティアも共に地面に転がってしまい、慌てて抱き起こす。



体を揺すると、シューティアは薄く目を開いた。



シュウ「……キリ」


『ごめんな…ごめん…俺の所為だっ…。お前は、俺と間違われて…あいつらに……』

あれほど流したと言うのに、また涙が双眼から零れる。



シュウ「……もう少し眠っててくれれば……。なんで…来ちゃったのさ」


『シュ…ゥ…』
呆れたような視線に、冷ややかな言葉に、胸が締め付けられた。





温かな手が、頬に触れた。


シュウ「本当に…どうして…来ちゃったのさ。あんな光景…見せたくなかった…のに」

優しい手つきで、雫が拭われる。



シュウ「……僕の方こそ…殴ったりして…ごめん…ね…っ」


『シュウッ…!』


強く、一回り小さい彼の体を抱き締める。

みっともなく、大声でキリフォードは泣いた。


まだ涙が止まらないキリフォードに構わず、シューティアは話し出す。




シュウ「さっき、見た通り…あの人達は、君を…狙ってた」


『うん…だけど、あいつらは間違えてシュウを――』


シュウ「僕が…進んで君の身代りになった…」


『え…、なんで…』


シュウ「聞いて…キリ。もう…あまり時間がない…だ…」


『シュ――』


シュウ「君は言ったよね…?誰かを護れる“力”は必要だ。だけどそれは暴力だけじゃない、別の方法も有るって…。

僕にしか選択できない…誰も傷付けずに済む、納得出来る方法が…って」


『……』
キリフォードは黙って首を振る。




シュウ「それが…これだよ、キリ。力が弱い僕でも、大切な友達を護ることが出来る方法……。

父様に…この前訊かれたんだ…」


『…?』


シュウ「“キリが憎いか”って」


『ぁ……』



シュウ「…そんな顔…しないで? 僕はこう答えた」



シュウ「わか…りません…。でも、憎くないと言うと嘘に…なります。彼は強くて、カッコよくて…そして優しい。…僕は、そんな彼が」






シュウ「――大好きだよキリ、そして君を護りたい…そう思った」


『ぅ…っ…くっ…』


シュウ「昨日の僕の声……聞こえた…?」


キリフォードは頷く。


幾度も殴られ、意識が薄れる中、彼が溢した想い。




シュウ「……本当に君は……優しいね。そんな君だから僕は…


君をあいつらになんか渡さない。君を護りたいと思ったんだ…」





シュウ「ねぇ…キリ、僕は君に逢えて…本当に…嬉しかった…。父様や母様以外に…僕の事を認めてくれる……君と逢えて…」


『ぁ…ぁぁ…ッ…』


シュウ「僕の髪…綺麗って言ってくれた…嬉し…かった。弱い僕と…いつも一緒に…居てくれて……ありがとう…」


『ぁ…ぁ…ぅッ…』


シュウ「殴って…ごめん。1ヶ月の間…無視して……ごめっ…。


最期まで……僕を…独りで逝かせないでくれ…て…」









『ぁぁ…うぁぁァァ――ッ…!!!!』

冷たくなった親友を抱き締め、声の出る限りに泣き叫ぶ。

ピクリとも動いてくれない彼の亡骸を、グチャグチャにかき混ざった感情のままに抱き抱える。



―――ごめん、君の悩みに気付かない兄で…


―――ごめん、君の心の泣き声を聞き取れない親友で…


―――ごめん、君を無意識に傷つけていたばかりの従者で…


















彼に粗末な形だけの墓を作り、無意識にあの洞窟へとやって来た。
するとそこには、あの本が置いてあった。
恐る恐る、ページを開き言葉を失った。



ロードが従者を殺害して半年が過ぎた頃、狼男達は人間達によってその命が奪われていった。
しかし、ロードだけは助かった。


狼男は黒髪と知られていた。
もともと彼の髪も「黒」だったが今の彼の髪は「赤」
皮肉にも親友を殺害して代償として受けたそれが、彼を厄から遠ざけたのだった。



そう、ロードは「呪い」と言ったそれは、こうなる事を予見していた、死して尚の従者キリの護身だったのだ。

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