マギ長編2

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『なん…だよ……これ』

絞り出した声に答える者は誰一人と居ない。



『なんで…村が燃え…――誰か、居ないのかっ!! 長ッ! シュウッ!!』

黒煙が立ち上り、村全体が赤々と燃えている。
あちこちで人が倒れ、その多くは火傷によって焼けただれている。

キリフォードは夢中で走った。



――誰か…誰か…っ!!



そう心で叫ぶが、“誰か”ではない、あの美しい金の髪の少年が脳裏をかすめる。




――無事だよな…シュウっ!

通り過ぎる場所すべてで見掛ける屍を見て、更に不安は大きくなっていく。























シュウ「………キリ…っ…?」


『シュウ!!』

見付けた。
瀕死ではあるが、間違いなくシューティアは生きていた。

しかし、それだけで済まなかった。





「おや、まだ生き残りが居たようだな…?」


「生き残り…とは、また事情が違うみたいだがな」


「どこかに隠れていたのかな…?」


口々に喋るこの人々は、最近よく村に出入りしている“旅の占い師達”だった。

しかし、長を中心とした村の一同は、彼らを“占い師”など下級の魔法使いとは思っていない。




『お前ら…シュウをどうする気だ…』

あくまでも感情的にならず、冷静に問い掛ける。

彼らは単に助けに来てくれた可能性も無くはないのだから。

だがそんな考えは所詮、ただの浅慮に過ぎなかった。





「これから彼は、我々の組織の“人形”として、生涯利用させてもらう」


『人形…ッッ!?』



「我々は5年前に一度、彼を攫うのに失敗している」



『ご…』

5年前……?


「この村の外れの洞窟に、ご両親と住んでいてね、大層仲が良かったようだ」


村の外れの洞窟…?


「君の友達の両親は、その計画の邪魔をしてくれてな。…二人纏めて消させてもらった」


二人纏めて消した…?



『(何を言ってるんだ…?シュウは紛れもない長の子供……。長もその奥方も生きてるって言うのに……)』


すると、バラけたパーツを嵌めるように、脳内で1つの話が出来上がる。



【5年前】【村外れの洞窟】
【両親が居ない子供】



『お…れ…?』

霞掛かっていた記憶が、画質の悪い映像のようにブレて見えた。






優しく笑う女性に手を繋がれ、大樹の根元の窪みに隠される幼い子供。


男性の無骨な手で、痛いくらい撫でてもらい、満面の笑顔を浮かべる子供。

そして、その小さな口が「いってらっしゃい」と動く。



しかしその時以来、帰らぬ男女。
待ち焦がれ、時に涙を流す子供。





「彼はこの一族の中でも、特別強力な力を有していてね。君も、いつも護ってもらっていたんだろ?」


男の声で我に帰る。


『特別…っ』


間違いない、彼らは自分を狙っている。
……では何故、彼らは自分ではなく、シューティアを拐っているのだろう。





「おい、もうこちらにも火の手が回る。子供を手に入れたのだ」

「そうですな、長居は無用かと……」

一人、また一人と言うと、彼らは宙に浮き出した。



すると、一陣の黒い風がシューティアを抱えた男に襲い掛かった。




「なにっ…」


『――待てよ、テメェらが村を襲った犯人で間違いねーんだな…?』


キリフォードの腕の中には、浅い息を繰り返すシューティアが。




「貴様…ただの子供ではないのか」


『俺はキリフォード。……テメェらが拐おうとした“この人”は俺の弟であり、親友で…
―――最初の“主”だッ!!』




「――殺れ」


呼び掛けると、一斉に襲い掛かってくる。

キリフォードは瞳を赤く染め、それらを睨み付けた。

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