マギ長編2

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今…何が……?


シュウ「…これが、“殴る”ってことなんだね」


次第に熱を持ち始める頬を押さえる間もなく、2撃目が襲った。


今度は口の中が切れたようで、口内で血が滲んだ。





『シュ…ゥ』


シュウ「ねぇ、キリ…。君はあの原本に興味を持ってたみたいだから、今…教えてあげるね?」


シューティアは本の内容を話す。
ロードという人物は従者キリがいつからか憎くなった事。

実際、ロード自身の髪は黒かった事。



シュウ「じゃ、どうして燃えるような【赤髪】になったのか…それは」


――血だよ。



『血――ぅぐっ』


3撃目。
口内に溢れていた血液が、シューティアの色白い拳に付着した。



シュウ「じゃ、それは誰の血だったのか…。ここまで来たら…解るよね?」


――まさか……


『キリ……の』


シュウ「そ、彼の首筋に噛み付いて、その時浴びた大量の血液で髪が赤くなったんだって」


他人の血液で、髪が赤くなる。
そんな事が理論上可能なのか…?



シュウ「……【呪い】なんだって」

シューティアはくしゃりと自身の髪を握った。



シュウ「……ロードは、僕の家の先祖なんだ」


『え……』



シュウ「人の血を浴びたぐらいで普通髪なんて染まらない。ロードは何度も髪を洗ったのに、色が落ちないんだ。
そしてロードは気付くんだ。“キリが私を呪ったんだ”って…」


シューティアは原本の内容を続ける。
すると、黒い雨雲からポツポツと滴が落ちてきた。


シュウ「今の僕がやってる事は、かつてロードがやった事だ…。従者だったキリは、抵抗する事無く、彼に…殺されたんだ」


ゾクリと肌が粟立つ。



『ぐっぅ…ぅぁ…』


シュウ「どうしたの?いつもやってるみたいに、僕を殴ってもいいんだよ…?」

またキリフォードの顔に傷を増やす。
次第に視界が歪んできた。


『ぁ…ぐっ!』


シュウ「……ねぇ…キリ?」

頬に温かいものが伝う。


『殴れる…か…よぉ…っ』

――そんな苦しそうに泣くお前を……






シュウ「……本当に君は……優しいね。そんな君だから僕は…」


『うああぁぁッ―――…!!』











シュウ「さようなら…キリフォード」

そこで意識が途切れ、キリフォードは激しく降り注ぐ雨の中、横たわっていた。





――なんで…だよ、シュウ…っ


意識を手放す直前、キリフォードはそう呟いた。








*****





『っっ…』

どれくらい眠っていたのだろう。口から流れた血液も、雨で濡れていた衣服も嘘のように渇き、空には暖かな太陽が昇っていた。

夢だったのだろうか…?
しかしそんな考えも、全身に走る鈍い痛みによって現実のものと教えられる。


浮かぶは昨日の苦しそうな親友の顔。
震えていた華奢な手足。


キリフォードは再び涙を流した。護っていた筈なのに、無意識に彼を傷付けていた。
紛れもない……自分が。


奥歯を食い縛り、情けなくも嗚咽を溢した。










漸くして落ち着き、キリフォードは村へと歩を進めた。
彼に会って、まず何を話そう…。
重い足取りで辿り着いた村に、キリフォードは息が詰まった。

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