マギ長編2
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キリはとても強かった。強く、優しく、親友であるロードをいつも一番に思っていた。
一方で、ロードはキリと同じ狼男だと言うのに、“戦う力”に乏しかった。
ロードはいつしか従者であり親友であるキリに邪の心を持つようになった。
〔私は、キリが……憎い〕と。
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シュウ「ッッ…」
【狼従勇者】の原本のページを進めていくたび、自分がロードに抱いていた様々な思いが裏切られていく。
そして最終章まで読み進めると、視界が滲んだ。
上手く呼吸もできず、とても息苦しい。
嗚咽が、静かな自室に響いた。
『なぁシュウ。最近部屋に籠りっきりだけど……大丈夫か』
シュウ「うん…平気。」
『……』
目が少し赤い。泣いていたのだろうか…。
隈も目の下にくっきりとついている。眠れていないのだろう。
『どうして…俺には見せてくれないんだ?』
シュウ「ん?」
『いや…あの本、【狼従勇者】の原本…なんだろ? 俺もその本好きだから…』
シュウ「うん…ごめんね?まだ…全部読めてないから、読めたら貸してあげる」
ズキッッ……
『うん、楽しみにしてる…』
シューティアが嘘を吐いている。
たった1年やそこらの関係でも、それが解った。
傷む胸を隠すように、キリフォードも笑って返す。
大切な人に心配を掛けないよう、二人の狼少年は嘘にウソで返し合う。
そんな日々が、ここ最近続いていた。
そして、悲劇の演者達が、そんな少年達を見詰めていた。
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そしてこの日、悲劇のシナリオが終盤を迎える…――。
『シュウ!どこまで行くんだよっ!!?』
シュウ「………」
『おいシュウ!』
そろそろ夕日が向こうの空に沈む頃、最近何かとキリフォードを避け続けていたシューティアが声を掛けてきた。
そしてシューティアに促されるまま、キリフォードは素通しの道を進む。
『あれ……ここは俺が前に教えた……?』
お気に入りの丘――…
シューティアを振り返ると、突然視界が反転した。
背中には冷たい土の感触。
目の前には雲行きが怪しい空。
倒れた自分の体の上には、表情に翳りのあるシューティアが馬乗りになっていた。
『シュ――』
シュウ「……どぉ?自分より弱い奴に組み敷かれる気分は…?」
にこりと、いつもの人の良さそうな笑みとは違う、苦しくて暗い笑顔だった。
『何言ってッッ!』
シュウ「……キリはいつも、こんな気分を味わってたんだね」
クスクスと不気味に笑う。
嫌にその声がキリフォードの鼓膜に纏わり付いた。
シュウ「でも、やっぱり変なの。僕をずっと護ってくれていた君が、僕なんかに倒されてるなんて…」
抑揚がない声に、更に不安が押し寄せる。
『どう…したんだよ…シュウ…』
情けない声が喉から出た。
シュウ「どうしたも無いよ。キリ、“力”って言うのは、戦闘力だけじゃないって…君が言ったんだろ?」
『がッっ!』
不意に、頬に痛みが走った。
あまりの出来事に、キリフォードは目を見開いた。
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