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□年の暮れには
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倉「寒みー…」
曇天の空を見上げると、ヒラヒラと白いものが降ってきた。
倉「……道理で寒い訳か」
そう言って倉間は小柄な身体を縮こまらせた。
今日は12/31。世に言う大晦日だ。
倉「あ…、南沢さん…」
倉間は憧れの先輩を見つけた。
自然と鼓動が速くなる。
倉「――南沢さん、何してんッスか?」
南「ん?よぉ、倉間。
…別に、何をしてる訳じゃねぇよ。ただ単に、晩飯を買いに来ただけだよ」
倉「今日は一人なんスか?」
南「その言い方…、なんか俺が必ず女か誰かと一緒みたいだな」
倉「…そうじゃ…ない…スけど」
倉間の歯切れの悪さに呆れ気味に南沢は答える。
南「……今日は、父さんも母さんも地区の忘年会に行ってて居ないんだよ」
倉「あ…そうスか」
南「そう言うお前ンとこは?」
倉「ウチも似たようなもんス」
たわいもない話をしながら、倉間と南沢は一緒に帰って行く。
倉「あ、除夜の鐘…」
遠くの方から、ゴォォォン…と頭に余韻を残す音が聞こえてきた。
南沢「もうそんな時間か。……そう言や、倉間。お前んとこの親も今日は帰ってこねぇんだよな?」
倉「え、そうスけど。…なんでっスか?」
南「じゃあさー…――」
不意に、倉間の手に暖かいそれが重なった。
南「ウチに来いよ」
倉「………え…//」
南「今年の暮れは、俺ンちで過ごせよ」
南沢は、倉間の目に訴えかけるように言った。
問い掛ける口調ではなく、もはや決定事項で、倉間に否定権は無いようだ。
倉「……// わかりました…」
少し目線を泳がした後、倉間は頷く。
南沢はそんな倉間の反応に口元を緩め、繋いだ手に力を込めた。
―――--……‥
―--…‥
倉「ぉ、お邪魔しまーす…」
南「おー」
誰も居ないと承知の上で、倉間は礼儀としてそう言った。
南「晩飯持ってくから、リビングに行っててくれ」
倉「――っあ、はい…!」
緊張の所為で、倉間は声が裏返りそうになった。
南沢はそれに頬を緩ませ、キッチンへ向かった。
倉「〜〜〜〜っ///」
(何、柄にも無く緊張してんだよオレはっ!)
倉間は髪を掻き乱し、火照る頬を手で押さえながらリビングに向かった。
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