マギ長編
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子供1「相変わらず、お前って弱っちーのなぁ」
シュウ「……っ」
シューティアは村内の林に薪を拾いに来ていた。
すぐ近くだと軽視していたようだ。
まさかこんな所で彼らが遊んでいるなんて、思ってもなかった。
拾い集めていた薪は辺りに散らばり、中には彼らに踏まれ、折れた物もある。
子供2「なぁ、お前【狼従勇者】って本知ってるかー?」
突然、その子供は言った。
シュウ「その本が…何…?」
子供2「その本の主人公…ロードだっけ?そいつの髪色知ってるか?」
シュウ「……燃えるような“赤”」
子供2「そ、“赤”……けどな、狼男って、従者のキリみたいに暗い髪色してんだって」
シュウ「!? そんな設定、どこにも書いてなんか…!」
子供2「子供向けの方には…な。
なぁ、あれって子供が読みやすいよう掻い摘まんで書いた本と、実話を纏めた原本が有るって知ってたか?」
シュウ「原…本!?」
初耳だった。
一度父に、本の続編などは無いかと尋ねたことがあった。
しかし父は首を横に振り、その本一冊だけだと流された。
子供2「――お前ってさ、ロードに似てるわ…」
シュウ「そ、それってどういう…」
『――てめぇら何してやがる!シュウに近付くなって言っただろーがッッ!』
シューティアが子供に尋ねようとしたが、それは様子を見に来たキリフォードによって遮られ、子供達は逃げてしまった。
『悪いシュウ…。薪を拾いに行ったにしては遅いから……ごめんな、すぐに気付いてやれなくて』
シュウ「う…、ううん平気。今回はそんなに酷いことされてないから……」
シューティアの頭の中は先程言われた言葉でいっぱいだった。
子供2「――お前ってさ、ロードに似てるわ…」
シュウ(どういう事…?僕はロードに似てるって……)
『……シュウ…?』
シュウ「あ、ごめん……。キリ、この薪を持って、先に帰っててくれないかな。行きたい所があるんだ」
そう言って、半ば押し付ける形で薪をキリフォードに渡したシューティアは、一目散に村の図書へと向かっていった。
『ッッ、……一人で大丈夫なのかよ!!』
大丈夫ーー!!
耳の良い自分達はそう会話を交わし、キリフォードは複雑な表情で渋々帰路についた。
『(…あ、また……)』
再び村の入口に、昨日の覆面の人影が数名。
それに対峙しているのは、やはりシューティアの父だ。
流石に距離があり、会話を聞き取れない。
しかし長の表情は穏やかではない。
そして、しばらくすると覆面の者達は去っていった。
肩の荷が下りた長は踵を返し、キリフォードの立つ位置からでも表情が窺えた。
その長の表情を見て、キリフォードは肝を潰した。
長は元々、人柄も穏やかで、魔狼牙族にしては比較的に優男だった。
その長の今の表情は、そんな姿を微塵も感じさせない、ハッキリとした怒気を含んでいた。
優しげに見えていた目尻をつり上げ、顔に影が掛かっていた。
キリフォードはゾクリと背筋が寒くなり、全身を粟立てた。
*****
シュウ「……そんな、嘘だよね…。ロードがっ……そんなのって…」
シューティアは村の図書で独り呟いた。
シュウ「ロードが……僕らの先祖だなんて…っ」
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