マギ長編

□36
1ページ/1ページ




子供1「相変わらず、お前って弱っちーのなぁ」


シュウ「……っ」


シューティアは村内の林に薪を拾いに来ていた。
すぐ近くだと軽視していたようだ。
まさかこんな所で彼らが遊んでいるなんて、思ってもなかった。



拾い集めていた薪は辺りに散らばり、中には彼らに踏まれ、折れた物もある。




子供2「なぁ、お前【狼従勇者】って本知ってるかー?」

突然、その子供は言った。




シュウ「その本が…何…?」


子供2「その本の主人公…ロードだっけ?そいつの髪色知ってるか?」


シュウ「……燃えるような“赤”」


子供2「そ、“赤”……けどな、狼男って、従者のキリみたいに暗い髪色してんだって」



シュウ「!? そんな設定、どこにも書いてなんか…!」



子供2「子供向けの方には…な。


なぁ、あれって子供が読みやすいよう掻い摘まんで書いた本と、実話を纏めた原本が有るって知ってたか?」



シュウ「原…本!?」

初耳だった。
一度父に、本の続編などは無いかと尋ねたことがあった。

しかし父は首を横に振り、その本一冊だけだと流された。





子供2「――お前ってさ、ロードに似てるわ…」


シュウ「そ、それってどういう…」




『――てめぇら何してやがる!シュウに近付くなって言っただろーがッッ!』


シューティアが子供に尋ねようとしたが、それは様子を見に来たキリフォードによって遮られ、子供達は逃げてしまった。





『悪いシュウ…。薪を拾いに行ったにしては遅いから……ごめんな、すぐに気付いてやれなくて』


シュウ「う…、ううん平気。今回はそんなに酷いことされてないから……」


シューティアの頭の中は先程言われた言葉でいっぱいだった。




子供2「――お前ってさ、ロードに似てるわ…」






シュウ(どういう事…?僕はロードに似てるって……)



『……シュウ…?』



シュウ「あ、ごめん……。キリ、この薪を持って、先に帰っててくれないかな。行きたい所があるんだ」


そう言って、半ば押し付ける形で薪をキリフォードに渡したシューティアは、一目散に村の図書へと向かっていった。




『ッッ、……一人で大丈夫なのかよ!!』



大丈夫ーー!!


耳の良い自分達はそう会話を交わし、キリフォードは複雑な表情で渋々帰路についた。






『(…あ、また……)』

再び村の入口に、昨日の覆面の人影が数名。
それに対峙しているのは、やはりシューティアの父だ。



流石に距離があり、会話を聞き取れない。
しかし長の表情は穏やかではない。


そして、しばらくすると覆面の者達は去っていった。

肩の荷が下りた長は踵を返し、キリフォードの立つ位置からでも表情が窺えた。


その長の表情を見て、キリフォードは肝を潰した。



長は元々、人柄も穏やかで、魔狼牙族にしては比較的に優男だった。

その長の今の表情は、そんな姿を微塵も感じさせない、ハッキリとした怒気を含んでいた。


優しげに見えていた目尻をつり上げ、顔に影が掛かっていた。
キリフォードはゾクリと背筋が寒くなり、全身を粟立てた。










*****









シュウ「……そんな、嘘だよね…。ロードがっ……そんなのって…」


シューティアは村の図書で独り呟いた。








シュウ「ロードが……僕らの先祖だなんて…っ」
_

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ