マギ長編
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シュウ「それにしてもビックリしたよ…。いきなり傷口舐めるんだもん」
『俺は、お前が男って事に、ビックリ』
二人して互いの顔を見合い、クスリと笑った。
『1つ…いいか?』
シュウ「なんだい?」
『お前、俺と同じ匂いがする。その…俺は【魔狼牙】って…一族なのか?』
シュウ「うん、そうだと思うよ?
髪は黒いし、さっき一瞬だけだったけど、君の目が赤く変わったから……」
そう言ってシューティアは自分の髪に触れた。
『【魔狼牙】は…みんな髪が黒いのか?』
シュウ「…うん」
『…お前の髪は、黒くない』
シュウ「……うん」
『――キレイだな』
シュウ「えッッ!?」
シューティアはその大きな瞳を見開き、声を上げた。
シュウ「ご、ごめん!急に声を上げたりして。……ありがとう、そんな風に言ってもらったの初めてだよ」
シューティアは両頬を赤く染め、可愛らしくはにかんだ。
『……お前、本当に男か?』
シュウ「え!? ひどいなぁーっ!」
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それからこの二人はよく遊ぶようになった。
ある晴れの日には丘まで出掛けたり、雨の日にはシューティアが家から持ってきた書物を読んだ。
最初の内はロクに字も読めなかった【少年】だったが、シューティアが丁寧に教えた結果、少々小難しい本でも読めるようになった。
『なぁなぁシュウ!この本も読んで良いか?』
シュウ「あ、【狼従勇者】だね!僕もその物語好きなんだ!」
一緒に読もうよ!
そう言うと、二人肩を並べて仲良く本を読み出した。
シュウ「この物語さ、僕らの一族みたいじゃない?主人を護る狼男のキリとかさ」
『俺も主人公のロードみたいな人に付きたいなぁ。
“従者”としてじゃなくて、“親友”として対等に接してくれんだもんなぁ』
シュウ「でも実はロード自身も、同じ狼男だったのは驚きだよね?“親友”で“主と従者”かぁ…」
そう言えば…シューティアは【少年】に尋ねた。
シュウ「君には、名前が無いんだっけ?」
『…あったと思うけど、親が死んでから、俺の名を呼ぶ人が居なかったから。……もう自分の名前も思い出せない』
顔に影がかかり、【少年】は下唇を噛んだ。
シューティアはそんな彼を見て、優しく提案する。
シュウ「なら、僕が決めて良いかな。君の名を……」
『え……』
シュウ「キリ。この物語の狼男から取ってキリ…、キリフォードでどうかな?」
『キリフォード……』
シュウ「嫌かな?」
『キリフォード…、良い名前だ』
シュウ「本当!?」
シューティアは嬉しそうにはにかみ、「よかったぁ」と安堵を吐いた。
シュウ「これからよろしくね、キリ!」
『こっちこそ、よろしくなシュウ』
そして月日が経って、キリフォードはシューティアの家に引き取られた。
シュウはキリフォードより1つ年下だった事で、キリフォードは立場上シュウの兄のような存在になった。
シュウの両親はとても気さくで優しかった。
特に父親は魔狼牙の長を務めていた事で、村中の者から信頼されていた。
彼もシュウ同様髪は黒くはなかったが、それでも立派な人だった。
しかしそんな人の子供でも、シューティアはよく子供達に虐められていた。
『てめぇら!シュウをイジメてんじゃねーぞ!!』
そんな子供達から、キリフォードはいつもシュウを護っていた。
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