マギ長編

□33
1ページ/1ページ



「優しい」




【少年】は、その単語に違和感を覚えていた。

と言うのも、【少年】に両親はいない。彼が幼い頃、不慮の事故で二人共命を落としたらしい。


【少年】は親の温もりを知らず七歳を迎えた。
それまで【少年】は村からかなり外れた洞窟に住んでいた。



近くの森に出掛け、木の実や果物の他に、野鳥や兎を食べて暮らしていた。
時に通りすがりの旅人を襲い、食糧を奪う事もあった。








――そんなある日。



子供1「あっはは!」

いつも昼寝をする丘に行くと、数人の子供達がやって来ていた。

先客か…。

【少年】は眉根を寄せて踵を返した。

しかし、次に聞こえてきた声に、思わず【少年】は足を止めた。




?「ひっぐ…や、やめてよぉ…」


子供1「こいつすーぐ泣くんだぜぇ。男の癖に」


子供2「そもそもこいつ男かよ〜?女みてぇな顔してるぜー?」


子供1「髪の色も変だしさぁ。キモチワルイんだよー」


子供3「本当は女なんじゃねーの?ちゃんと付いてんのかよー女男」


子供2「脱がしたらイイんじゃね?」


?「ぇ……!」

その言葉に便乗した他の子供達が、金髪の少年を押さえ付けた。
金髪の少年は大きな瞳を見開き、大粒の涙を溢した。


?「や、やだ!やめてよ!」


子供1「なら抵抗してみろよ。お前も【魔狼牙】ならさー」

手前に立っていた子供が、金髪の少年の衣服に手をかけた――。








子供1「う、ああ!!」

突然子供が真横に吹っ飛んだ。

それに驚いた残りの二人の隙を狙い、金髪の少年は咄嗟に逃げ出した。



子供2「てめぇ!何しやがった」


?「ヒッ!」


子供3「待て、このガキ!」


金髪の少年にあと一歩というところで、二人の子供も同様に吹っ飛んだ。



子供2「な……っ!!?」



『…ちっさい女に、3人がかりなんて、ヒキョー』

地につくほどの漆黒の長髪を靡かせ、【少年】は子供達の間に立ち塞がった。




子供3「な、なんだよお前!」


『ここ、俺の場所。出てけ』


子供3「はぁ?だからお前は何…」


『 出 て け 』


瞬間、子供ながらに感じた。

こいつは強い…と。


子供達は脱兎のごとく走り去っていった。



?「……あ、ありがとう。助けてくれて…」

金髪の少年は服についていた泥を落としながら、礼を述べた。

すると、【少年】がズイッと顔を寄せてきた。



?「ッッ!!?」


『オデコ…血が出てる…』

指摘され、そこに触れてみると、少量の血が付着した。



?「あ、さっき押さえつけられた時に…」

打ったのかな…。
言葉を言い終える前に、【少年】に抱き抱えられ、金髪の少年は彼の住み処である洞窟にやって来た。


?「…え?…??」


状況が飲み込めないまま、金髪の少年は干し草の上に降ろされた。

【少年】はさっきと打って変わって、あたふたと慌てふためいていた。



?「え…えっと、怪我の事なら平気…だよ?」


『だ、だめだ…血が出てる!こういう時…どうしたら…』

しばらく考え込んでいたが、決心したように【少年】は再び顔を近付けてきた。



?「え、え、えぇぇ!!」

すると【少年】は、金髪の少年の額の傷を舐め始めた。

ざらりとした独特の感触が傷口を撫でる。



?「な、な、なな何してるのっ!!!」


『痛かったら言え』


?「い、痛いとか、そんな事じゃなくて…!」

顔を赤面させ、必死に抵抗する金髪の少年シューティアと、数年の間他人と関わらずに生きてきた一匹狼の少年は、こうして出逢った。


_

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ