マギ長編
□本能と性
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「おーい、キリーっ!」
刻は昼時。アリババは赤々としたそれを2、3個抱えて家に帰ってきた。
「キリ…?」
しかしそこには彼の姿は無く、静寂した自身の家内が広がっているだけだ。
アリババは踵を返し、路地を進んで行く。
「キリー!キリーーっ!」
彼は耳が良い。だからこうして叫べば、彼の耳に届くはず。
「おーい、キリーー!」
しかしどうしたことだろう。この時は一向に彼が姿を現さない。
「あ…!」
しばらく大通りを探していると、背の高い建物の上に座っているその姿を見つけた。
(どうやってあんな所まで登ったんだ!?)
彼の居る建物の裏に回ると、梯子や階段も無く、ただ垂直な壁だった。
彼は魔狼牙だ。恐らく自慢の身体能力を駆使し登ったのだろう。
辺りを見回していると、隣の家屋に錆れた梯子が掛かっていた。
―――---……‥‥
「おーいキリ〜…!」
『アリババ…?なんでこんな所に居んだ?』
「それはこっちの台詞だよ。
…俺は、売り物にならない形の悪い林檎を貰ったから、お前と分けて食べようと持って来たんだ」
『へぇ…、悪い事しちまったな』
「別に、良いって」
アリババはキリフォードの隣に座り、林檎を1つ渡した。
それを齧りながら、アリババはキリフォードの視線を辿っていく。
「なんか真剣に見てたけど、何見てたんだ?」
『ん〜〜?』
キリフォードも林檎に齧り付き、アレだ…と指差した。
『あそこに居るブタ野郎だよ』
「え、ブーデル様!?」
キリフォードがずっと見ていたのは、高級ブドウ酒で名高く、傲慢な性格で言われているブーデルだった。
アリババも噂や同じバイト仲間達から時々話を聞いている。
「なんでまたブーデル様なんか?」
ブーデルは現在、市場の通りで部下を引き連れ、両手一杯に食物を抱えていた。
『――うまそうだな…』
「え、ああ。いいよなぁ…金さえ持ってりゃ、うまい飯も腹一杯食えるんだもんなぁ」
『ああ…丸々と太ってて、脂がいっぱい付いてる。あれは極上の味だろうな…』
「ん、あーあの部下の人が持ってる肉か〜…。確かにうまそうだなぁ」
『…やっぱり、ブタはあの丸々と太った腹から食うのが旨いんだよなぁ』
「ブタ?部下が持ってるのは鳥だろ…?」
アリババは話が噛み合ってない事に疑問を抱き、キリフォードに尋ねた。
「……なぁ、ブタって?」
『あそこに居るじゃねーの、あのブタ野郎が…』
アリババは彼とブーデルを交互に見る。
・
「え…お前って、魔狼牙だけど…人間だよな?」
『そうだけど?』
「お前らって…元々何食ってたんだ…?」
恐る恐る彼に尋ねた。
『そうだなぁ。木の実や果物、あと食べられる野草とか――』
「ほっ…」
『あとは鳥や羊やヤギの肉…。因みにブタの肉は大好物だったなぁ…』
ギラギラとした彼の瞳は、いつの間にやら赤に変わっており、その上獲物を狩る獣の目だった。
口内ではヨダレが溜まっていたようで喉を鳴らす音が聞こえた。
「へ…へぇ…」
もはや表情が引き攣っているアリババは、そんな返事しか出来ない。
『あとは…旅人(が持っていた食糧)もよく食ってたっけ…』
「ひっ!!!!」
――旅人を食うっ!!?
アリババは顔を真っ青にし、徐々にキリフォードと距離を開けていった。
『…どうしたんだアリババ?』
「い、いや!俺は食べても旨くないからなっ!!!」
『はぁ!?』
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というやり取りが、本編の前日に行われていたとか…。
これを書いた前の日に『あらしのよるに』を読んだ身としてはかなり辛辣です…(T□T)