マギ長編
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アリババ「俺達と行こうぜ!」
ジャミル「!?」
アリババ「考えろ。チャンスだろ!?ここは【迷宮】あんたが領主様から逃げたって、誰も咎めやしねーんだぜ!!」
心の底から人の事を考えられるアリババの言葉は、とても純粋で、穢れがない。
だからこそ、今のモルジアナや他の奴隷達からすれば…
眩しくも、詭弁にしか聞こえないのだ。
モルジアナがアリババへ歩み寄る。
そして彼が差し伸べた手に自分の掌を合わす―――
『………』
モルジア「………」
アリババ「えっと…、キリ?」
ことは未遂に終わった。
と言うのは、キリフォードがアリババの掌を握った為だ。
しかしモルジアナはちゃんと手を握っている。
キリフォードのもう片方の手を。
『ホンっっト、あんたは人の話聞かねーな!?舐めたら危ないって言ったろ!!?』
アリババ「キリ、お前何してんの…?」
『あんたを護ったに決まってんだろーがッ!つか今必死に投げられないよう堪えてんだ、ちょっとは察しろアリバカ野郎ッ!』
一見そうは見えないが、彼の腕の筋肉が悲鳴を上げているらしい…。
一方モルジアナもポーカーフェイスをしていて解りづらいが、内心かなり動揺していた。
モルジア(おかしいわ…。手加減してるつもりなんて無いのに…、ビクともしない…!?)
自分が今出せる力全てを込めてキリフォードを投げようと試みているが、全く動く気配が無い。
ジャミル「――何をしているんだモルジアナ!そんな下民の手を取るなんて、まさか…お前裏切るつもりか…!」
モルジアナの肩がビクリと跳ね上がる。次第にガタガタと体も震えてきた。
すると、突然ジャミルが表情を歪める。
ジャミル「…いや、よくやった。そのまま魔狼牙を捕まえておけ」
モルジア「!」
キリフォードは初め意味が解らなかった。
しかしジャミルが歩き出した事で気づく。
『くっ…そ!おい放せ!放せって!』
グッと力を込めて引くが、流石はファナリスというのか、掴む力はかなり強力だ。
『お嬢ちゃん放せって…!!』
とにかく掴まれてない、アリババの手を握っていた方の手を離し、叫ぶ。
『アリババ、全力で逃げろ!!』
しかし一足遅かった。
その一瞬の隙にモルジアナがキリフォードを投げ飛ばし、アリババ共々石柱にぶつかる。
アリババ「が…、キリ…っっ」
よりにもよってアリババが下敷きになってしまった。
『アリ…ババ…』
頭を打った為、意識が朦朧としてきた。
頭を振って、正気に戻ると視界よりも真っ先に鼻腔に入ってきた匂いに血の気が引く。
自分の命に代えて、必ず護るべき人の血の匂い。
そして目に飛び込んできたのはジャミルに幾度も蹴られ、鼻血や打撲などが出来た大切な主人の傷付いた姿。
ジャミル「はは…奴隷の使い方も知らない貴様に、奴隷の使い方を教えてやるよ。――モルジアナ」
ジャミルは彼女に自身の剣を渡し、命じた。
ジャミル「お前がこいつを殺せ!」
キリフォードは聞き間違う筈のない自分の耳を疑った。
――殺す…!!?
その言葉に、少なからずモルジアナも動揺した。
彼女は剣を握りしめ、戸惑いつつ領主を振り返った。
ジャミル「 殺 れ 」
その一言に、モルジアナは簡単に畏怖する。
植え付けられた過去の記憶が、彼女を支配し、縛っているから。
それからジャミルは、狂ったように「殺せ、殺せ」と繰り返す。
それに伴い、モルジアナが剣を振り下ろした。
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