マギ長編
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「――はっはっはっ!こりゃぁ良い乗り心地だ!なぁキリフォード」
主人は【魔狼】になったキリフォードに問い掛ける。
「おっと、獣のお前が喋る筈がないか…。にしても実に愉快。町民達が向けるこの羨望の眼差し…」
主人は厭らしい笑みを浮かべて町民達を見下した。
(くそっ、くそっ!【魔狼】は主に対する上級の従属行為だってのにっ!なんで…こんなヤツにっ)
キリフォードは歯を食い縛り、懸命に足を動かした。
その時、この主人の男は何を考えて居たのだろう。
ただ、ただ…キリフォードを冷えた目で見下して居たのだ。
*****
そして何日も何日も、同じ奴隷の仕事を繰り返し、傷付けられ、奴隷になって3ヶ月が経つ頃。
いつもこの時間は【魔狼】になり男を乗せて出掛ける時間。
男は檻の鍵を開けて入ってくる。そしてキリフォードを鞭で打ち起こす。
そしていつも通り、主人に蹴飛ばされて外に出される――筈だった…。
『っっ!?』
「何故だ…」
地を這うような低い声だった。
「何故だ…。何故3ヶ月も経つと言うのに、貴様は…主人である俺様にその目を向ける…?」
何故だ…何故だ…、ブツブツと何度も繰り返す主人は、キリフォードの鎖を持ち上げ、首を絞めている。
薄れゆく意識をかき集め、男を見ると、明らかに目が据わっていた。
――イヤだ、こわい…
「キリフォード…またそんな目を俺様にむけやがって……」
――…こわい、助けてくれ…
「駄犬めが…調教し直してやる」
――やめ…やめろ!何する気…
「まずはその気に食わぬ目を潰してやるっ!!」
――ぅぁ…あぁ!や、や め…
そこでキリフォードの意識は途切れた。
*****
次に目覚めた時には、主人の男が血だらけで息絶えていた。
キリフォードは生きていた。
何故自分が生きている?
何故この男は死んでいる?
何故?
頭の中では、たくさんの疑問符が浮かんでいた。
ただ、1つだけ確実に解る事があった。
震える手でそこに触れる。
鉄臭く、生温かいソレは、血。
鼻の良い魔狼牙には、ソレが誰のものかが解る。
確証を得た身体は、途端に恐怖と激痛を訴える。
『ぅぅ…ぁ、ぁぁあっ!!』
微かに残っていた理性が、息絶えた男の衣服を破いた。
その布で激痛を訴えるそこを覆うと、開いた檻からここを抜け出した。
途端に【魔狼】になり、風と共に駆けた。
これを機に、彼は【奴隷】から脱する。
そして後に、スラムに身を置く心優しい王子に出会う事となる。
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