マギ長編
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――イヤだ、こわい…
「キリフォード…またそんな目を俺様にむけやがって……」
――…こわい、助けてくれ…
「駄犬めが…調教し直してやる」
――やめ…やめろ!何する気…
「まずはその気に食わぬ目を潰してやるっ!!」
――ぅぁ…あぁ!や、や め…
*****
――キリフォード(8歳)
バシィ!!!
「おら、さっさと起きやがれ!」
『ッッ!』
毎朝、キリフォードは主人による体罰で起こされる。
今朝は鞭で容赦なく叩かれた。
キリフォードは虚ろな目で、怠そうに起き上がった。
バシィ!!!
『ぃッ!』
「貴様!なんだその目はっ!主人である俺様に向ける目じゃねーぞ!」
キリフォードは別に睨んだ訳じゃない。
生まれつき、彼の目は鋭くつり上がっていて、よく睨んでいると勘違いされるのだ。
「ったく、【魔狼牙】は奴隷専門の一族と聞いたが…貴様は飛んだ駄犬だなぁ」
『ち…』
――がう、と続く言葉を飲み込む。
口答えすれば、再びあの鞭で叩かれる。
しかし、
バシィ!!!
「貴様ッ!何舌打ちしてやがる!!!」
『ご…ごめんな…さ』
先程出かかった言葉が舌打ちに聞こえたらしく、再びキリフォードの身体に傷をつけた。
突然、主人である太った男がキリフォードの首輪を引っ張った。
キリフォードの首には首輪が付けられている。
そこから鎖が伸びており、両手首の枷に繋がっている。
男はその首と手首を繋ぐ鎖を引っ張った為、キリフォードは軽く宙吊り状態となる。
「おら、出掛けるぞ!さっさと準備しろッ!」
『ぅ……は…ぃ』
時間が経つにつれ、首が締まっていく。一方で返事をしなければ叩かれる為、絞り出すようにキリフォードは返事をした。
「さっさと跪け!この駄犬め!」
檻から出されると、真っ先に背中を蹴飛ばされる。
そして非自己的に四つん這いになる。
すると、この主人はキリフォードの小さな背中にその太った体を乗せた。
『か…はぁ…!!』
齢8歳の身体にその体重は容赦なくのし掛かる。
骨は軋み、筋肉が悲鳴を上げ、神経は脳から警鐘を送ってくる。
「ふん、最近飯が不味くてなぁ、やつれる一方だ」
そういう男は、キリフォードに全体重を押し付けながら、その上でムシャムシャと肉に齧りついた。
キリフォードは自身の体が悲鳴を上げる中、思った。
――俺たち魔狼牙は、誇り高き一族だ…
――何が奴隷専門の一族だ!
てめぇらみてぇなブタ野郎に従うような粗末なプライドを俺達は持っちゃいねぇんだっ!!
――なのに…っ
「おら!さっさと歩け!!」
『ぅ…ぐぅ…』
一歩、また一歩と震える四肢を動かしていく。
「はっはっはっ!良いぞキリフォード!その調子だ!」
――今の俺は…、ただの恥さらしだ…っ!!
下唇を噛むと、そこから血が滲んできた。
「そういえばなぁ、キリフォード」
『……はぁ…はぁ…』
「貴様らに関する文献を見つけたもんで、読んでみたぞ」
『ぅ…ぐぅっ…』
「すると面白い文を見つけたぞ」
『はぁ…ぅ…ぅぅ』
「貴様ら、【魔狼】という姿になれるそうだなぁ…?」
『(ビクっ…!!!)』
「なぁぜ今までその姿の事を俺様に言わなかったんだ?ん?」
『め…いじ……られま…せん…でし…た…から』
「そーかそーか。無駄な口答えはするなと言う俺様の命令を忠実に守ったと言う事か。駄犬にしては賢いな」
『く…ぅ…』
「では、今、ここで、今すぐに、その姿になってみろ」
『そ…それは…』
「今、すぐに、なれ」
『お…俺は…』
「な れ」
『ぁ…ぁぁ』
見上げると、男は今までに何度と見せた冷血な眼差しをキリフォードに向けていた。
キリフォードは後にこう言う。
“誇りが高かろうと、魔狼牙だろうと、底知れぬ恐怖の前には全てが無になる” と……。
※夢主の奴隷時代を描いてみました。