マギ長編
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『…アリババ。俺が良いって言うまで目閉じててくれ』
アリババ「なんで…?」
『――良いな?』
アリババ「う…うん」
アリババが目を閉じた事を確認すると、キリフォードは深く息を吸い、瞳を閉じた。
次に目を開いた時には、右は水色、左は深紅とオッドアイに変わっていた。
刹那キリフォードの犬歯が牙と化したと同時に、強烈な風が吹き荒れた。
*****
『アリババ、もう良いぜ』
アリババ「え…あ、すげぇ!登ってる!」
壁の下を覗くアリババの襟首を引っ張り、キリフォードは言う。
『もう、すぐそこにアラジンが居る。…あと、あの嬢ちゃんもな』
進むと、窓から光が差し込んでいる所が見えた。
そこから顔を覗かせて下を窺うと…
モルジアナ「ご友人達は……、死んでしまいましたよ!!」
『は…?』
アリババ「………生きてるよ」
アラジン「(……あ、あれ?)」
物音でこちらに気付いたアラジンは、驚いたような、不安そうな顔でこちらを見上げていた。
モルジアナ「…ご友人達は…死んでしまいましたよ?」
アラジン「えっ?あ…うん…そうかい?」
返事が無いので、モルジアナがもう一度呟く。
それにアラジンはオロオロと挙動不審になりつつ生返事を返した。
『(アラジン、この前のターバン出してくれ…)』
アラジン「(…あ、うん)」
激しく動揺しているのか、あるいはジャミルに対する強大な恐怖心からなのか、彼女はアリババやキリフォードが降りて来たのも気付かない。
アリババ「(準備OKだ、キリ)」
アラジン「(さ、飛ぶよ?)」
『(と、その前にっ)』
キリフォードは敷いてあった絨毯を持ち上げると、モルジアナに向かって投げた。
モルジアナ「“立ち場”に気をつけないと…死んでしまぷっ」
タイミング良くモルジアナが振り向き、見事モルジアナの視界を覆った。
刹那ターバンが宙に浮いた。
アラジン「――そうでもないよ、お姉さん」
モルジアナ「え……っ!!?」
モルジアナは目を見開いた。
死んだ筈の人間が生きてる事にか、ターバンが宙に浮いた事にか、あるいはアラジンの的を射た言葉に対してか……。
アラジン「見えない鎖が切れる頃…一緒に太陽を見に行こう!」
途端にモルジアナの表情が一変。憤りを込めた鋭く暗い視線をこちらへ向ける。
モルジアナ「知ったふうな事を言わないで…。私達、奴隷の人生がどんなものか…、少しも知らないくせに!!」
モルジアナの左足が深く地にメリ込む。
アリババ「おいおいおい…」
『………』
ドドドドドドドドドッ――
なんとモルジアナは垂直な壁を、地を駆けるように駆け上がってきた。
アリババ「ひいいい!!アラジン、上!上!」
慌ててアラジンも高度を上げる。
モルジアナ「待て!!」
壁を蹴り、モルジアナは高く跳び手を伸ばした。
彼女の手がターバンに触れようとした時、
『――知ってるさ』
そう言うとキリフォードはモルジアナに向かって飛び降りた。
モルジアナ「っっ!!?」
アラジン「えっ!」
アリババ「キリッ!」
キリフォードはモルジアナから伸びた右腕を掴み、そのまま一緒に下に落ちていった。
アリババ「キリっ!!」
『先に行っててくれ――…主』
本人の前では滅多に使わない言葉を残して、キリフォード達は下に足を着けた。
モルジアナ「――くそっ!!」
歯を食いしばり、モルジアナは拳を握る。
モルジアナ「何なんですかあなたはっ!あなたが邪魔をしなければ!」
『………』
モルジアナ「……りょ、領主様になんて言ったら…」
『その恐怖が…、お前の自由をどこまでも縛る…』
モルジアナはキリフォードを睨む。
モルジアナ「知ったふうな口をっ…!」
『だから知ってるさ。主人に逆らうという行為がどんな結末を招くのか。それがどんなに恐ろしいか…なんて』
モルジアナ「あなた…何なんですかっ」
『その足枷の重さ、虐げられる苦しみ、主人への底のない恐怖心…、全て知ってるさ。俺は』
――奴隷だった…。
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