マギ長編
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ジャミル「やあ、よかったよ〜。連れてきた奴隷のほとんどが、入口を抜けたら消えてしまってて、不便だったんだよね!」
ハハハ!5歩ほど後ろで聞こえる軽快な笑い声。
現在アリババ達はジャミルの罠避けとして前方を歩かされている。
アラジンを人質にされている為、下手な事は出来ない。
しばらく歩くと迷宮の造りが変わってきた。
壁には燭台。
岩肌の下にはレンガ。
そして前方には…
ジャミル「やあ〜!いよいよ【迷宮】らしくなってきたじゃないかー!」
そう言いながらジャミルは二人を押し退け、先頭に立った。
ジャミル「いかにも【宝物庫へ】って感じのもんだよね」
ジャミルの言う通り、竜の頭を模した入口は「いかにも」という感じだ。
入口の前には何やら文字が彫られた石版が設置されている。
ジャミル「…これは確か【トラン語】だな…」
アリババ「現在も南部の少数部族で使われるアレかな?」
同じく石板を覗き込んでいたアリババが呟くと、ジャミルはトウモロコシを差し出し褒め称えた。
ジャミル「やるね君ィー!平民で文字が読めるだけでも珍しいのに…!」
アリババ「いや〜たまたまッスよ!ハハハ!」
『(主はてめぇみてぇなエセ貴族な人じゃねー。正真正銘の…)』
スン…と鼻を利かせると、キリフォードは隣にいたゴルタスを見上げた。
『なぁお前、ゴルタスって言ったか?あんたから少しだけだが広大な草地の匂いがする…。あんた、もしかして【黄牙】の…?』
ゴルタス「………」
声を出せない為、ゴルタスは何も言わない。
『……そっか』
しかしキリフォードはどこか納得したような態度を取った。
ザクッ
ジャミル「今からそう言おうと思ったのに…、まったく平民がでしゃばるんじゃないよ」
『てめぇ…何して…』
今にもジャミルに襲い掛かろうとしたキリフォードを、アリババの小さな「待てよ」が制した。
アリババ「ただじゃ転ばねーぜ俺は!」
口角を上げて言うアリババを訝しげに見ると、解ったと瞳の色を戻した。
*****
アリババ「領主様……これは?」
目の前に現れたのは天井に無数の剣と怪しげな床穴という定番の罠。
ジャミル「ははっ!この時の為の罠役だろう君ィ!」
そう言ってアリババを推薦するジャミル。
それにギョッと顔を青褪めるキリフォードはアリババの肩に手を置き制止をかける。
『あんたが行くことねぇ!俺の速さなら向こうまで突切れる!』
だから俺が…という言葉はジャミルによって消された。
ジャミル「いや、君に行ってもらうよ。魔狼牙は後々役に立つだろうしね」
ニヤニヤとした笑みを浮かべるジャミルに、とことん反吐が出る。
アリババ「キリ、心配すんなって。俺なら大丈夫――だ!」
刹那アリババは駆け出した。
それに反応し、次々に剣が降ってくる。
それをアリババは素早く避けて前に進んで行く。
アリババ「ゴールだっ!!!」
ジャミル「おお―――っっ」
パチパチと拍手しているジャミル。
アリババ「は〜っ……!助かった…」
キィ…ギィ
『アリババ!!!』
安堵する彼を余所に、キリフォードの耳には聞こえた。
ある仕掛けが動く音を。
叫んだ刹那、
ガコン
音と共に、アリババの居た床が開き、下には刃が連なっていた。
あれっ?俺、これでおしまい?
アリババは穴に落ちてゆき、そんな事を思った。
『アリババぁぁ!!』
その後を追い、キリフォードまでも穴に飛び込んでいった。
こればかりには、領主だけでなくゴルタスやモルジアナまでも驚きを隠せないでいた。
――あの人は、私と一緒で、鼻が利く筈なのに…どうして…?
モルジアナは心の奥でそう思った。
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