マギ長編
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『――てな訳だ、俺は“魔狼牙”…かのファナリスをも凌ぐ迅速の民。生まれつき【人】と【狼】の双方の姿を持つ異彩の一族なんだ』
アラジン「さっきのは何なんだい?」
『ああ、あれは魔狼牙一族の【主従関係】の表れだ。アリババが強く願う事柄には逆らえないようになってんだ』
キリフォードはコツリと自身の頭を親指で小突く。
『俺の脳に直接雷魔法の電磁波がいって、俺の意思関係無しに身体を従わせる事が出来るんだ』
アラジン「じゃぁ、さっきの“お手”は何だったんだい?」
するとキリフォードはアリババを一瞥し、溜め息を吐いた。
『“魔狼牙”の主になった者に、重要な契りの印を1つ決める権利があるんだけどよ…。それがさっきの【アレ】なんだ』
キリフォードは更に続ける。
『他の奴らの契り印って言ったら、手を胸に置くとか、主の掌に口付けるとか、手を特別な形に組むとか、如何にもって格好いいモンばっかだってのに!
俺のなんか見たかッ!?【お手】だぞお手ッ!!!確かに狼界じゃ普通の上下関係の表しだが、それを人間にさせるってどんな神経してんだって話だろうがッ!』
マシンガントークを終えたキリフォードは、興奮したためか瞳が完全に赤に変わっていた。
アリババ「ま、まぁまぁキリ落ち着けよ。まぁ…大事な印をアレにしちまったのは悪かったけど…、お前ちょっと犬ぽかったから、つい…」
へへ…と苦笑いでごめんな〜と謝るアリババを、キリフォードは尚も恨めしそうな表情で見るが、溜め息を吐き立ち上がった。
『とまぁ、俺については粗方話した事だし、どうするアリババ。目前に【迷宮】があるが、【迷宮攻略】と行くか?』
三人の視線の先には【迷宮】の入口が仰々しく佇んでいた。
アリババは入口を見据え、息を詰まらせる。
アリババ「あの膜に触れたが最後、中に引きずり込まれちまう…!し、慎重にいかねぇとな…」
ちょと様子見…とアリババが【迷宮】の入口に恐る恐る触れようとした時、
『あ』
アリババに向かって、アラジンが鎧球(アメフト)選手張りの強力なタックルをブチ込んだ。
アリババ「あ―――……!!!」
当然、二人は【迷宮】に引きずり込まれてしまった。
キリフォードは頭をガシガシと乱暴にかくと、後を追うべく【迷宮】の入口へと飛び込んだ。
*****
―――不思議な世界を見た
――綺麗や美しいと言った言葉では表せない程の絶景
――まるで何処か違う世界のようだった…
『―――っっ』
後頭部を打ったようで、その頭痛に誘われ目を覚ますと、何処かの洞窟のような場所に居た。
下には浅いが水が流れており、お陰でキリフォードの衣服はずぶ濡れ。
『……アリババ、アリババ!アラジン!何処だ!!?』
自慢の鼻を駆使し、辺りの気配を探るが、全くもって何も感じられない。
取り合えず移動するべきかと考えていると、頭上の岩が光った。
『?』
頭に疑問符を浮かべていると、見慣れた少年が落ちて来るではないか。
『ァ、ラジンっ!?』
咄嗟にその小さな体をその腕で受け止める。
『アラジン、アラジン。おい、アラジン!』
キツくない程度に揺すると、眉間にシワを寄せ、ゆっくりその瞳を開けていく。
アラジン「っ……、キリくん…?」
『ああ』
キョロキョロと周りを見渡し、アラジンに問う。
『アリババは?あの人は一緒じゃないのか?』
アラジン「アリババくん居ないのかい?」
『ああ…、俺が来た後、アラジンがそこから落ちてきたんだ』
アラジン「……じゃあ、もしかするとアリババくんも後で来るんじゃないかな?…どうやら時間差があるみたいだし」
『…そうだな』
アラジンを地面に下ろし、待つ間の事を相談する。
『ここら辺には怪しい気配も匂いもしねぇから、アラジンはここであの人を待っててくれ』
アラジン「キリくんはどうするんだい?」
『この先にある空間を少し見てくる。すぐそこを見て来るだけだから、何かあったらすぐ駆け付けてやる』
アラジン「わかった、気を付けておくれよ」
アラジンに見送られ、キリフォードは洞窟の先に向かう。
少し歩いて行くと、洞窟とは違い、天井から光が差し込む広い空間に出た。
『すげぇ……』
見たことのない光景にキリフォードは感嘆の声を溢す。
光輝く岩肌に不思議な植物。
『――まさに【迷宮】の中って感じだな…』
警戒心を持ちつつ、ぐるりと見回した後、たくさんの入口の1つを覗いてみる。
『――死体臭せぇ…』
途端、キリフォードは顔を顰めた。
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