マギ長編
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アラジン「いろいろ売ってるね〜」
アリババ「そりゃそうさ、食料でも武器でも」
この町、チーシャンは【第7迷宮】が出現した時、冒険者が集まって栄えた町である。
その為、数多くの店が【迷宮】に役立つ商品を売っている。
『アラジン、変なモン触るんじゃねーぞ。怪我しちゃいけねー…って言ってる側からなンつーモン持ってんだお前』
アラジン「フフ、アリババくん。これなんかどうだい?」
アラジンは無邪気に言うが、その手に握る武器は何とも禍々しい代物である。
そうこうしていると、やはり武器の重さに耐え切れなくなり、アラジンはアリババの方に傾いていく。
『危ねぇ!』
咄嗟にキリフォードはアリババの上着の襟を掴み、引っ張った。
アリババはキリフォードの足下で尻餅をつき、アラジンの持っていた武器はそのまま倒れていく。
アリババ「あっ!? 危ねーっ!」
武器が倒れゆく先には大量の林檎を運ぶ少女が。
アラジン「――あっ!!」
刹那、大量の林檎が宙を舞う。
アリババ「ぉ、おい大丈夫か!?」
アリババは急いで少女に駆け寄る。
少女「………」
『…服を擦っただけみてぇだな』
アラジンとキリフォードは散らばった林檎をかき集めていく。
拾った林檎を抱え、アラジンは少女を覗き込んだ。
アラジン「ごめんよ、お姉さん…」
少女「………」
アラジンが集めた林檎を軽々と籠に投げ入れ、少女は膨れっ面でアラジンを見下ろした。
それを見たアリババは、昨日の接客の如く愛想を浮かべた。
アリババ「ゴッメンネ〜!!うちのバカが…。怪我ない?荷物運ぼっか??」
後ろの方でキリフォードが吹き出した事は言うまでもない。
そして少女の反応はこうだ。
少女「いえ、いいんで…」
そう言うと少女は去っていく。
『あーっはっはっはっは!! フラれたなぁアリババ! もーサイコーっ』
ヒーヒー、と腹を抱えて笑い出すキリフォードをひと睨みし、アリババは「可愛くねぇ…」と呟いた。
すると、アラジンが少女を見詰めていた。
つられてアリババも少女を見ると、ギョッと顔を青ざめさせた。
キリフォードに至っては顔を険しくさせる。
――ジャラッ…
少女の足首には、何とも痛々しく重たい足枷が付いていた。
視線に気が付いた少女は肩を跳ね上げ、咄嗟に足首を隠そうと身を屈めた。
すると次々と林檎が落下していく。
光景を見たアラジンは、アリババに問う。
アラジン「あの娘、足に鎖が…」
アリババ「ああ…あの娘…」
――奴隷だ…
アリババ「腐った世の中だよな、戦争捕虜だか何かだろうがよ…、一生、金持ちに家畜同然に扱われて終わるなんてよ…」
そこでアリババは顔に影を作った。
アリババ「まぁ、俺も借金あるし、他人事じゃねーけどな。…あれっ、アラジン?」
アラジン「待って、お姉さん!」
アラジンとキリフォードは、少女に近付いていく。
キリフォードが鎖を持ち上げ、アラジンは笛を構えると、ひと吹き。
すると固いものが弾ける音が辺りに響いた。
アラジン「ハイ、とれたよ!これでお姉さん、きれいな足を隠さずに歩けるね!」
少女「……!」
アリババ「ッ!!」
――ヤバイ!!!
辺りにいた通行人達もどよめき始める。
アリババ「おいっ!その鎖を切るのはマズイって…!」
アラジン「まずいって…なんで?」
アリババ「なんでって…えと、そりゃあ…」
アラジン「まずいって、なんで?」
アラジンの純粋な疑問にアリババは言葉に詰まってしまう。
『――このお嬢さんみたいな鎖を勝手に解く事は、お偉いさんの所有財産とかの窃盗で、重罪なんだと』
切った鎖の端を弄び、キリフォードが言う。
アリババ「キリ…、知ってたんならなんでお前まで…!?」
フ、と目を伏せ、キリフォードはニヒルに笑う。
『あんたも昔“やった”じゃねーか』
アリババ「あ、あれは…」
「コラそこ〜っ、何騒いでる〜〜っ!」
騒がしいのを聞き付け、昨日の傲慢なあの男がやって来た。
「ホレホレ群がるな!ワシは今、機嫌が悪いのだ……」
周囲の人々をかき分け、姿を現したそれを見たアリババと、アリババを見たその男は同時に叫んだ。
「「あッ!!!」」
アリババ「あぁ…あんたは〜〜、なんでここに〜っ…」
アラジン「あっ!君は昨日の……おっぱいおじさん!」
「ザケンなクソガキャッッ!」
ひと叫びすると、忌ま忌ましげにおっぱいおじさん…基ブーデルはこちらを睨んでくる。
「くそ〜っ…。貴様らのせいでワシは大顧客の信用を失ったんだぞ。ぜっったいに許さんからな!!」
背筋を凍らせ、冷や汗を流すアリババは、キリフォードの影に隠れた。
アリババを睨んでいたブーデルは、キリフォードを見た瞬間に「ヒッ!」と一歩下がった。
『よぉ、ブタ野郎』
徐々にキリフォードの瞳が赤くなる。
ガタガタと体を震わせるブーデルだったが、んん?と彼らの後ろにうずくまる少女を見て顔を顰めた。
「……貴様ら…この上、奴隷を窃盗か?重罪だぞ…?」
アリババ「…僕ら、何もしてませんっ」
アリババは余計な事を言わないようアラジンの口を塞ぎながら、弁解する。
「本当か〜〜?」
アリババ「やだなぁ旦那様。冷静に考えてくださいよ…。僕ら武器もない非力な一般人ですよ?こんな太い鎖を切れるわけないじゃないスか…」
――余計な事を言うんじゃねぇぞ!
アイコンタクでそう訴えるアリババに解ったよ…と目配せすると、キリフォードも続ける。
『見たところ、随分と年期が経って錆び付いてるみてぇだし、どっかにぶつけた拍子に切れたんじゃねーかなぁ』
「………」
あっけらかんと言い放つキリフォードにブーデルは訝しげに見るが、そう簡単には騙されないようだ。
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