マギ長編
□7
1ページ/1ページ
アラジンは宝物を見つけたように目を輝かせ言った。
そんなアラジンに対して、アリババの頭の中は疑問符で埋め尽くされている。
そんなアリババの状態に拍車を掛けるように、背後の戸が乱暴に叩かれた。
「アリババ!!」
その声を聞いたアリババは慌てて戸に向かった。
アリババ「やべぇ、社長だ!」
アラジン「しゃちょう?」
アラジンが首を傾げる。
『アリババの働いてる先の経営主で、要するに金をくれる偉い人だな』
アラジン「へーー」
「アリババ!お前、なんてことしてくれたんだ!」
アリババ「いやぁ…」
ちらりとキリフォードを見るアリババ。
「先方は使った分の弁償代金他、慰謝料に1000金貨って言ってきてるぞ!」
『おー、こりゃまた』
アリババ「…その事ですが、後で相談しようと思ってたんスけど…」
「お…おい…、笑ってる場合じゃねぇぞ……」
社長は眉を寄せて、諭すような口調で言った。
「…お前…、奴隷にされるぞ」
アリババ「ど、奴隷?」
その単語に、キリフォードは片眉を上げた。
さらに社長は続ける。
「ブドウ酒の納品先はな…かの悪名高いこの町の領主だったんだよ。奴は、奴隷をいたぶり苦しめて楽しむ変態野郎なんだ…」
『おい、ちょっと待て。確かに酒は使っちまった。でもそれは俺が活躍したお陰で、一つ分しか使ってねぇはずだろ!?
なんでアリババが奴隷にされなきゃなんねーだよっ!』
「その件に関してはこう聞いている。――領主に届く筈だった酒を一つでも使ったという事は、盗賊の蛮行と同等。その身を一生捧げ続ける事で等価を得る…」
ガッチャーン!!
『ふざけやがってッ!』
キリフォードは近くにあった水差しを踏みつけると、そう呟いた。
「うちの会社もどうなるか…」
アリババ「…大丈夫だ、キリ」
アリババは社長に向き直ると、手を差し出した。
アリババ「大丈夫です、社長。奴隷になんかさせません」
社長は戸惑いつつアリババの手を掴んだ。
アリババ「俺、【迷宮攻略】で成功して、弁償代金でもなんでも払いますから!」
「はぁ!?」
アリババ「大丈夫ですって、キリも居ますし、それに…。おい、アラジン」
アラジン「?」
アリババ「お前、さっき【迷宮攻略】行きたいって言ってたよな」
アラジン「う、うん…」
アリババは口角を上げると、アラジンを指差す。
アリババ「連れてってやるよ!
その代わりにお前のジンを、社長に見せてやってくれ!」
アラジン「……うん!」
アラジンが笛を吹くと、ムクムクとウーゴくんが姿を現す。
屋根を突き破る程のその巨体を見た社長は、腰を抜かし、口をパクパクと開閉している。
アリババ「社長……こいつの名は…アラジンです。
彼は偉大なる大魔術師であり…、そして俺の一番の―――っ」
キリフォードは先程と打って変わり、口角を上げてそれを見守る。アラジンも期待を込めた視線で次の言葉を待っていた。
アリババ「俺の一番の――家来だ!!」
途端キリフォードはずっこけ、アラジンは固まってしまった。
****
アリババ「や〜〜!社長驚いてたな〜っ!」
上機嫌なアラジンとは正反対に、アラジンは肩を落とし、トボトボと後ろをついて来ていた。
そんなアリババを軽く小突くと、キリフォードは言う。
『アリババ…、さっきのはナシババだぞ?ありゃねーって!』
アリババ「ナシバ…?何がだ?」
『家来って何だよ!? あんた“友達だろっ”て言ってなかったか!?』
アリババ「それにしても、あの人にゃ世話になってるから、絶対不幸にはさせねーぜ!」
『話聞けやっ!』
――駄目だ…完全に浮かれてやがる…。
溜め息を吐くと、後ろを振り返る。
自分達に大分遅れた所で、アラジンは拗ねていた。
『アラジン…』
アラジン「お兄さん…僕はあのお兄さんの【家来】なんだね…」
『あー、あれはただの見栄っつーか…、ああ、見栄だな』
キリフォードはアラジンの目の高さに屈むと、アラジンの頭を撫でる。
アラジン「見栄…?どうして分かるんだい?」
『そりゃあ…、俺だってアラジンみてぇな部下が居たら鼻が高いしな』
アラジン「鼻が高いって…?」
『“誇らしい”って意味だ』
柔らかい笑みを浮かべたキリフォードに、アラジンは徐々に笑顔を取り戻していく。
『けど、俺はアラジンの上司じゃねー。【友達】だ』
これが決め手となり、アラジンは元気を取り戻した。
アラジン「うん、うん!!」
****
アラジン「……お兄さんと大分離れちゃったねぇ」
『心配ねぇって。俺の鼻が有りゃ、すぐに後を追える』
にこりとアラジンに笑いかけると、近くにあった樽の上に座る。
アラジン「お兄さんはすごいんだね。強いし、優しいし、ちょっと怖い時もあるけど、ハンサムだし…」
『おいおい、褒めても何も出ねぇ…って、さっきの林檎があったわ』
食うか?とアラジンに問うと、アラジンも隣に座り、林檎にかじりついた。
『俺が優しいねぇ…。あの人に会うまで、その言葉を言われた事はなかったな…』
アラジン「ねぇ、キリフォードくん」
『ん…キリで良いぜ』
アラジン「キリくん。僕、君の事が知りたいな」
『お前も直球だな…。いいぜ、俺の事、色々教えてやるよ』
そしてキリフォードはアラジンに語り出す。
_